東京芸術劇場シアターイースト モダンスイマーズ 『だからビリーは東京で』

 もちろん、泣いたよ。コロナの時代のリアル。自転車のペダルを漕いで街を行く石田凜太朗(名村辰)は、まだ一度も舞台に立ったことのない役者志望の若者である。その凛太朗が劇団「ヨルノハテ」に入り、声の小さい作・演出の能美洋一(津村知与支)に駄目だしされて、ぐーっと演出家に近寄るその時が、かっこ悪くていい。劇団内の恋愛のもつれも、清潔かつどろどろしているので見やすい。これは役者(伊東沙保、成田亜佑美古山憲太郎)の力だ。凛太朗の酒飲みの父(西條義将)の造型もよくできた。

 でもさ、この芝居、魅力がない。チャーミングでないのだ。それは多分、劇団「ヨルノハテ」が、あまりにもつまらなそうだからじゃないだろうか。劇団員たちはなぜ演劇をやっているんだかわからないし、作者が固執する路線が死ぬほど退屈に見える。ここ、凜太朗の初々しさとの対比としてもまずい。ハートがないもん。劇団員の住吉加恵(生越千晴)が韓国人の彼と電話でやり取りするとき、この人ホントに彼が好きなんだなあと思う。しかし印象薄い。印象が点で終わっている。あと、いろんな人が日本語を話す時代になってるのに無粋かもしれないが、成田の「さ行」はひどいよ。そして終盤わかる凜太朗の父に対する行動が、吃驚しない。効いてない。それは名村の演技のせいでもある。父に暴露されて、それが後ろめたさであるか憎しみであるかはわからないが、疵から何か流れ出さないとね。

 自転車の車輪は、「もう一度初めから」「もう一度初めから」と不毛にも見える回転を続ける。だがそれは演劇だ。ぐるぐると最初に戻ったように見えても、そこには新しい視界と新しい時間が展ける。自転車は進む。どこまでも。