紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA 劇団民藝+てがみ座公演『レストラン「ドイツ亭」』

「真面目なお嬢さん、」とヒロインのエーファ(賀来梨夏子)は呼ばれていた。いつもはちょっと残念な長田育恵の真面目さが、この芝居を光らせている。絶滅収容所、選別、ガス室アウシュヴィッツ裁判という暗い題材が、あまりにも重い虚無の額縁のように人類の上にのしかかっているせいか、原作の筋運びはやや軽く感じられ、「ドラマのためのドラマ」にも見える。しかし長田が一つ一つを引き寄せ、じっくり検討したおかげで、この作品は錨をしっかり下ろした船みたく、内側からドイツの激流を眺めることができる。でもほんとは、「やばい激流」だよね。善悪共に濁流に呑みこまれる感じの。やばさが足らない。「真面目」の両面だけどさ。

 賀来梨夏子、がんばった。台詞が言え、聴けている。一幕の最後の「私は真実が知りたい」ってとこ、大事だけど、見得切らないで。それよりも、最初の誤訳するところをよく注意して繊細にやってほしい。最初エーファは知らないけれど、ここ、観客全員が戦慄するシーンだ。

 床屋のジャスキンスキー(杉本孝次)、重要な役で好演している。私はあなたの慰めのために生きてきたわけではない、とエーファを突き放す。生きることの孤独と一人一人が背負う重荷をエーファに投げ返すのだ。優しく、他人行儀で、親しげでも冷たくもあるという、複雑なトーンだ。てがみ座の人々、民藝と違和感なくきりっとしてる。ユルゲン(岸野健太)もっと怖い感じじゃないの?

 「雷おやじ」が実は戦場でのPTSDであったといわれるように、民藝でいえば先年の『どん底』(2021)における民衆の戦争の傷が、世代を経て複雑化し、直接の被害ではないトラウマと化して腫瘍をつくり、免疫不全を引き起こしている様子を俯瞰するドラマ希望。受験でナイフを振りまわす子は、突然現れてくるわけではないよね。