新国立劇場小劇場 『ライフ・イン・ザ・シアター』

 舞台の手前側に役者の化粧台が2つ設えられ、その後ろにプロセニアムアーチ、フットライトに照らされた舞台が背中合わせに見えている。額縁によって切り抜かれた空間は、「虚無」にも「宇宙」にも「鏡」にも見立てられそうだ。お芝居って、じつは「無い」虚空のもの、でありながらそれぞれの空間でそれぞれの「おはなし」を実際に生きる、同時に存在する「多元宇宙」である。その上舞台は現実を映す鏡だ。してみると年配の役者ロバート(勝村政信)と、若い役者ジョン(高杉真宙)の演じる「芝居」はロバートとジョンに生きられた「現実」であり、語られるセリフは実際に二人の心を表わしている。――っていうことだとすると、ロバートがジョンに言う「声は音だ!/あらゆる現象のプリンスだ。」は、勝村政信高杉真宙に云っていると思えもするね。でもさ、最初の方、「あなたは最高でした」、声が割れてるよね。ただ割れているの?それとも声について言われる前だから、タッチをつけている?判然としない。はっきりね。私の中では、割れてるのは評価低いよ。幕開き直後に荒い息をしているのも、どうかなあ。意味が解らん。初心な若者から、売れっ子の役者になるまでを、もっとクレッシェンドつけないと。どんどん肩の力を抜いてゆく。勝村政信トミー・リー・ジョーンズが置き去りを志願する老人宇宙飛行士をやっていたのを思い出した。あれ、本当に老年の人がやってたら、「見るに忍びない」よね。勝村はまだかっこよくて身体も利く。ってことはディクレッシェンド、微かな老年を「演じる」ことが必要じゃないの。美術がキマっていて、客席をも巻き込みながら「虚」と「実」が展開する。勝村は大体あんしん、高杉も健闘している。しかし、やり取りを鋭く突き詰めてほしい。「嫉妬」と「羨望」が、逆転しなくちゃ。