渋谷TOHO 『ウェスト・サイド・ストーリー』

 ポップコーンを食べる女子高生や、制服のカップル、男子高校生のグループが多い客席を見て、衣の片袖を目に押し当てる。そうそう、この映画って、もともと君たちの物やん。それを、梅の木よろしく、御所に召し上げられちゃってねぇ。

 というのはさ、オリジナルの『ウェスト・サイド物語』(‘61)って、この2021年版『ウェスト・サイド・ストーリー』に比べると、地面からとても遠い。俯瞰で見たスラムを、見取り図にして、駒を動かし、頭で作り上げた、「上からの」「お仕着せの」「ハリウッド的な」一作である。新しいTonightのシーンを見ると、何だかわからないが、「召し上げられていた二人」「奪われていた恋」を、スピルバーグが夜空に梯子をかけて、ひょいと「二人」「恋」、それぞれの星を外して「手渡してくれた感」が強い。すんごく、「取り返してくれた」と思うのだ。’61年のトニーもマリアも、歯は白く、眼鼻立ちは整い、行儀がよかったが、あれ、あらかじめ漂白され、収奪されていたのだ。今回の作品では、グリンゴ(白人)のオペラハウスにスラムが変わる、と語られ、「奪われる」ということが映画の下地になっている。地面の開き戸を押し開けて始まる’21年版は、召し上げられたはずの梅の木がまるで元の場所に戻ったみたいに、ジェット団もシャーク団も生き生きしている。特に、主役級の若い人たちの表情はもうあり得ないほど美しくカメラに収められていた。時分の花かなあ。「取り返した」愚かと若さとが詰まっているせいで、梅はますます綺麗に咲く。

 Something’s comingのトニー(アンセル・エルゴート)とバレンティーナ(リタ・モレノ)のシーンが冗長である以外、目立った傷は感じられない。マリア(レイチェル・ゼグラー)が最後、「思いっきり走ってきた」とこがいい。涙。只、パンフレットが2980円で吃驚だ。えー?梅に戻ってきた鶯も、驚きの余り引き返しかねません。