渋谷TOHO 『トップガン マーヴェリック』

 すんごい速さで道をぶっとばしていくバイクのマーヴェリック(トム・クルーズ)の姿を、カメラは追いかけない。並走もしない。待ち受けない。後姿を見ながらぎゅーんと引く。ふしぎー。まるでマーヴェリックがちぎれて飛んでゆくように見える。ここんとこ、以前(まえ)のトニー・スコットの映画に弾丸を込めたみたいだよねえ。前作の冒頭3分(めっちゃかっこいい)、映し出されるのは空母の戦闘機の周りで、無駄なく厳しく働く地上の人々だった。決してヒーローじゃない、任務を負うひとたち、そのリアルから若いマーヴェリックらトップガンのメンバーは生まれた。けど、今作は違うのさ。同じように地上要員が動いても、流れるのはヒーローっぽい音楽だし、きびきびしてるけど、それを人に「みせている」。なーんだ、ヒーローものか。と思いはするが、ちょっと違う。これ、ファンタジーなのだ。マーヴェリックは、銃口を飛び出してまっすぐ進む。破天荒なミッション、身許不詳の敵国の中を突き抜けて。

 だめなのはね、何しろトム・クルーズ主演だから、「年を取ってる」「軍人として存在価値がない」「息子のような青年に嫌われている」っていう、負の追い込まれ方が薄いとこだ。ここ、追い込まれるから後半輝くんじゃん、ファンタジーが。よかったのはセックスシーンが簡略化されていたところ。これ、この頃本で知ったばかりだけど、踊ってるうちに衣装が変わっちゃう映画へのオマージュなんだね、きっと。もっとかっこよくできると思うよ。でも、どの役者もきりっと役柄を演じ、子役までが素晴らしい。こうした細部が訓練を面白く見せる。隊員さながら、飛行ルートを頭に叩き込まれ、どきどきはらはらする。空母から吹きちぎられて空に上がり、決して見ることのできない戦闘機の光景と、地上に残る私たちが夢見るファンタジーが、行き合い弾のようにきれいにくっついた映画でした。