角川シネマ有楽町 Peter Barakan's Film Festival 2022 『アメリカン・エピック1~4』

 あのー、わたし今日長く映画館に居て、アタマもうろうとしてるかもだけど、『アメリカン・エピック』はほんとに観てよかった。1920年代、ラジオが家庭の娯楽の首位を占めると、レコードの売り上げはみるみる落ちた。そこでレコード会社は地方にスカウトを派遣し、各地の無名の歌手を見つけ出して、持ち運びが可能になった録音機で歌を原盤に写し取り、レコードとして発売したのだった。この録音機に録音を果たした歌手たちのそれまでの生活、それからの生活、ヒットしたもの、うまくいかなかったもののことがこもごも語られる。

 中でも一番びっくりするのは、貧しいもの、虐げられたもの、無視されたものの中から、後世に残る凄い歌、時代を左右するようなシンガーが、たくさん出現していることだ。

 アパラチアの貧しいヒルビリー(カーターファミリー)、メンフィスの黒人バンド(メンフィス・ジャグ・バンド)、伝説の黒人ブルースギタリスト、チャーリー・パトンなど、一人一人が丁寧に取り上げられる。番組制作のこの丁寧さはなにか、悲しみや苦痛を「浄化」したいというような願いを感じさせる。だってさ、言っちゃあなんだが、「アメリカ」による彼らの「踏みつけ方」があんまり完璧で、踏まれた方の苦痛の半端なさがありありと感じられるのだ。苦痛がひくひく脈打っている。最後にたくさんの歌手が、現代に復元された録音機の一発録りに挑戦する。豪華で楽しいが、ここにも祈りのような丹念さがある。ジャック・ホワイト、ギターもピアノも歌も(ミシンも)、何でもできて凄いけど、録音終わったら、「25ドルあげます」とかいわんほうがいいよね。しめくくりは話が録音機にまたきゅっと集中する。それがちょっと不本意。正攻法でもうすこし苦痛について語ってもよかったのに。