角川シネマ有楽町 Peter Barakan's Film Festival 2022 『さらば青春の光』

 夜、お出かけしている間に、家が16,7歳の鴉みたいな若者でいっぱいになり、酒を飲んでセックスをし、花壇をスクーターでめちゃくちゃ荒したら、と思うと、顔が青ざめる感じ。もう私はジミーになれない。しょうもないおとなだよ。システムだ。がっかり。

 ジミー(フィル・ダニエルズ)はメッセージボーイとして広告代理店で働いている。草色のミリタリーコートと細身のスーツを着て、愛車のスクーターには装飾のバックミラーがいくつもつけられている。彼は60年代に流行った「モッズ」少年なのだ。

 両親はあんまり彼を構わない。うすく不和が暗示される。その雰囲気がいやなジミーは、毎晩スクーターで出歩き、ドラッグ中毒になっている。ひとの恋人ステフ(レスリー・アッシュ)が好きだ。休日にはモッズの仲間とブライトンへ出かけようとしている。ジミーの高まる期待に反し、ブライトン行から人生が狂い始め、何もかもがうまくいかなくなる。

 この映画に出てくる人みんなけっこうひどい。いや、相当ひどい。父親(マイケル・エルフィック)は、母(ケイト・ウィリアムズ)をじつは見捨ててる。ジミー自身は対立するロッカーズにいる幼馴染ケヴィン(レイモンド・ウィンストン)を見捨て、路で転んだモッズ仲間を見捨てる。モッズのヒーロー、エース(スティング)の職業を知り彼を見限る。広告会社の社員は嘔吐するジミーを無視し、ジミーが実は社会的に見捨てられる存在であることをはっきり観客に伝える。ジミーの父はきっと、いつなんどきでも見捨てられる、ということに疲れているんだね。誰もが誰かを見限り、遺棄する社会だと映画は英国を告発する。「あんたのせいじゃないの」とステフに言われるジミーが不憫。そらそうだけど、自己責任で追及を免れるのは、必ずシステムなのに、映画じゃ必ず自己責任論が出るねー。