角川シネマ有楽町 Peter Barakan's Music Film Festival  『モンク/モンク・イン・ヨーロッパ』

 発表します。わたし、セロニアス・モンクがにがてー。すきになれないー。勿論、セロニアス・モンクがたどたどしく弾く、落ちて輝く水のようなピアノはとてもいいとは思う。けど、モンクの作曲現場(メンバーの一人がコードを書きとり、モンクが自分の身体の中を辿りながらピアノを弾く)を見るともう絶対ムリ。ピアノの音が「蛍の苦い水」のむずかしい原液みたいなんだもん。素手で触ってはいけない感じなのだ。うわーこわー、と、震えあがるのだった。その上映画は、ヨーロッパツァー中のモンクのソロを何回も、金管楽器のパートは単調に平凡につなぐ。小4の時、「白鳥の湖」の全幕を見せられたことあったけど、あれに次ぐ体験でした。マジしんどかった20分だった。

 どんな人か知らなかったけど、クラーク・テリーというトランペット奏者がステージに上がると、映画はひゅうっと持ち直す。金管の人々も「複合拍子」だとか「8分の9拍子」とかすらすら口にしてすごくかっこよく、最後は素晴らしい演奏をする。モンクと組んでいるトリオの人たちはとても洗練されていて巧いんじゃないの?

 ヴィレッジ・ヴァンガードのバックステージで、モンクは時計回りに、どうしても押しとどめられないようにゆっくり10回以上体を回してみせる。押しとどめられない音。モンクの中には止められない音がいつも鳴っており、鍵盤に触れて出た音は、いつでも正義なのだ。身体から溢れた音はいつも正しいと、チベットの人の様にモンクは信じてたんじゃないかなあ。

 ブラックオパールの指輪が小指から抜けそうに激しくピアノを弾くセロニアス・モンク、着陸態勢に入った飛行機の中でにっこりするセロニアス・モンク、かわいいんだけれど、どんな人かはさっぱりわからなかった。