本多劇場 イキウメ『天の敵』

 「永遠と」っていう、今日びの言い回しが一か所だけ入ってて、すわりがわるい。これくらいのさりげなさで、それぞれの時代の言葉がかすかにあってもよかったねー。『天の敵』は一世紀にわたる一人の男の物語だけど、時代色が薄いからさ。それともこの気持ち悪さが、芝居を解くカギ?

 キッチンアトリエで実際に料理をする冒頭シーンから、菜食料理家の橋本和夫(浜田信也)へのインタビューに臨む寺泊満(安井順平)の現実に、過去の出来事が舞台上で混ざりこむ、事の次第、そして終幕まで、皆とても芝居がうまく、話は面白く、退屈のしようがない。中でも医師糸魚川典明(市川しんぺー)が、不老不死を肯んじないところ、小さな台詞がその奥行まで(彼の信条、生活、おもい)、立体的にぴかっと光ってその影が見える。

 タベルということ、食物連鎖、そこから抜け出せない人間、それが大きくフィーチャーされて物語の背骨を成している。だけど、その強度はちょっと低目かな。ベジタリアンさえ否定してしまう昔の有名小説ほどでなく、ヴァンパイア――性愛――というもう一つの側面にがっとストーリーが引っ張って行かれるシーンがあって、ちょっと物足りないかもね。

 この話、一人の自己中心的な男の物語のような気もした。「終わりにする」なんて、出来るはずもない。とっても勝手。人間が鎖につながれているとしたら、欲望の鎖もまた無限につながっており、「不老不死になりたい」望みは、決してなくならないから。

 浜田信也、神経質で敏感な大きな鳥のよう、安井順平はなぜか登場から顔が青く見え、儚い感じがする。妻(優子=豊田エリー)は彼を力づけるが、その先に何があるのか、見えるような、見えないような。