池袋シネマ・ロサ 『Bridal,my Song』

 「映画を見る側に考えさせるのがA級映画であって、すべてを説明してしまうのはB級だ」(クリント・イーストウッド、『「ローリング・ストーン」インタビュー選集』ヤン・S・ウェナー/ジョー・レヴィ編著 太田黒奉之/富原まさ江/友田葉子訳)と、イーストウッドセルジオ・レオーネに言い続けたそうなんだけど、してみるとこれって、「すんごいB級だけどA級の芽もちょっとある映画」ってことになるかな。

 ウェディング・プランナーとして、スモークを焚き、二人でテーブルのロウソクに灯をともして回るキャンドルサービスや、両親への手紙の朗読など、次々に思いついて実現してゆく主人公今田(小出恵介)。今田とそのチーム――会社――は、その黎明期(昭和55年)、バブル崩壊期(平成5年)、コロナ期(令和2年)と、三つの切り口で描かれていく。

 本作で一番センスあるのは、花嫁の父にほとんど台詞が与えられていない所だ。そこにうっすら、いつかA級になるかもしれない希望を感じるね。もう一つは大きなホテルを辞めて今田のもとに来た近藤(渡辺大)の不始末のくだりの説明のなさ。そして渡辺の二回すすりあげる泣き声の深さだ。省略が効いてるし渡辺の声のリアルさで、引っ張られて小出の芝居がよくなっている。しかし小出はこれでは駄目。心が割れる顔、胃の辺りに鉄球が落ちたような顔が、カメラの前で即座にできなければいけないだけでなく、好きな仕事に邁進する男の生地――誠実や熱意――が表情を引き締めた時出ないとね。それは顔だけの事じゃない。浅田美代子が覚悟を決めて映ってるのに、カメラ引きすぎ。行儀がいい。全部きちんと説明するし。だから意外性がない。この映画に一番必要だったのは、説明するなとずーっと言うクリント・イーストウッドではないですか。