シアタークリエ 『4000マイルズ ~旅立ちの時~』

 構造が、わからねー。これ結局何の話だったか、ちゃんと演出されていない。役者に意図が伝わってないし、役者が分かっていたとしても演じきれてない。『4000マイルズ』、青春ビルドゥングスロマンやん。自転車でアメリカを横断中に、強烈な喪失体験をした若い者が、オブセッションや、子供時代を脱ぎ捨てる話でしょ。芝居の感触、調子に繊細さを欠く。例えば、最初のレオ(岡本圭人)と祖母ヴェラ(高畑淳子)の、ニューヨークでの出会いのシーンには、軽い、なめらかな調子が必要だ。でなきゃ2時間10分、持たないよ。

 岡本圭人、「ぼくの両親は愛し合っていたの?」という台詞が、劇中、ぴかいちに輝いていて美しく、世界に一羽しかいない鳥のようだった。あれはレオの中の少年の素直な声のはず、あの声が出せるのならば、そこを基準にしてすべての台詞のトーンを緩やかなカーブで設定するべきだ。勿論この芝居には原文(英文)があるわけだけど、翻訳された台詞には訳者が探り当てた「譜」が籠められている。まず「譜」が読めんと、話にならないね。もっと演技プランを詰めないとね。レオはケージの鶏になるのを怖れている。そこがあいまい。ヴェラはもう少し面白く、もう少し軽快にしてもいいよ、口の押え方ちょっと考えて。

 アマンダの瀬戸さおりは、「姉さんであって、全く姉さんではない」という枠がはっきりしている。好演。レオの恋人ベック(森川葵)はそこが不可解でやりにくそうだ。「レオにいちいちがっかりされる女の子」?どういうの?どうやら少しぽっちゃりしているらしいということが出てくるけど、キャストが森川葵である以上、森川葵をキャストに選んだ以上、演出家は深く考えて森川と話し合う必要があるんじゃないの。ヴェラとレオのハグシーン、「あっさり」とか「心から」とか、かたちから細かく演じ分けた方がいい。