東急シアターオーブ 『ニューイヤー・ミュージカル・コンサート 2023』

今日の主役の四人(ベン・フォスター、アダム・ジェイコブス、レイチェル・タッカー、真彩希帆)が歌う、まるっきり序盤の、

 「The world is a stage,

 The stage is a world of entertainment!」

のとこで、はやばやと泣いている。うんうんそうだよねー。そうおもうー。オケ(最初重かった)のオープニングナンバーも入れて24曲、その2曲目だ。舞台に下がる白の襞を寄せた幕が8か所にあり、下の方で思い切り引き絞られて何かの種子――綿帽子のように、ひょろ長い風船のように見える。その真ん中で、オケが配置された舞台はふわふわ落下するのか浮かぶのか。

 あれっ沈むのかと思わせるのがその次のアダム・ジェイコブスが歌う「My Favorite Things」だったよ。あれ?フランク・シナトラとかかな?と、アダムはジャジーな拍に、遅れながらついていくのだ。なんか、散々同じ曲を歌ってきたベテラン歌手みたいな。こらこら。でも、この人、なにか蔵(かく)しているなと声を見る。粗い麻袋(衣装のせいか、それは青く感じられる)の中に、ちらちら光る矢が何本も入っている。だけど使わない。びゅっと一直線に空の向こうへ飛んでいく、文字通り突き抜ける声も持ってるはずなのにね。ポテンシャルあるなら使えー。でもここ、「ベテラン歌手の役」をやってたんだと思う。そのあとも全部役に入ってたもん。けど、前半観客はなかなか拍手しない。私も乗れなかった。12曲目で、レイチェル・タッカーが、「The Winner Takes It All」の途中から、くっと役に入り、「役柄の感情を生きる歌」をうたいはじめるところがかっこよかった。「芝居する。」ここに、ミュージカルを受け入れられる人と駄目な人が生まれる。ミュージカルの歌は芝居で、芝居は歌なんだよ。家の者はミュージカルの曲を私が流すと逃げ惑っている。歌に芝居が載ってるのが、苦手なのだ。一部の後半から二部、歌は加速し始め、四人が自分の好きな歌を歌う二部の終りには、わたしは「歌の翼に君をのせて~」という歌詞を思い出していた。と、飛んでいる。声の力で上空へ登る。アダム・ジェイコブスはさっきの青い麻袋を捨てて、陽にかがやく矢をキラッとさせている。存分に出る声。アラジンのオリジナルメンバーなんだって。「One Jump Ahead」と「Proud of Your Boy」のメドレーで、役の中で楽々と息をしている。次にベン・フォスターが「The Music of The Night」を歌うが、これが。研ぎ澄まされた技巧と、声量を、目的――曲想、役――のために惜しげもなくがんがん使う。驚倒する。ファントムが持ち役なのだ。緑のドレスを着たウィキッドのエルファバが来て(ってレイチェル・タッカーだけど)前方と、上方へ、ライトセーバースターウォーズね)みたいに光る声で歌いぬく。オケも白熱。すごかった。みな懐に短刀(ドス)をのんでいる。真彩希帆、懐に短刀(ドス)をもて。真っ直ぐ出るつよい声がだいじ。「うまくやれるかなあ」って考えない。こんなにできるんだから、あとは出たとこ勝負。