キノシネマ天神 『銀平町シネマブルース』

 映画1000本みてるボーイズクラブの映画。って思っちゃったよ。主人公の猛(小出恵介)は無職で、ホームレスの佐藤(宇野祥平)と大変近い境涯の人として登場する。底辺への畏怖とシンパシーを、「映画を見ること」が支えてくれる。猛はカルトで知られる映画の監督だった。この映画の登場人物たちは、給料半分でも、つぶれかけの映画館を経営してても、中学生でも、「映画を愛してる」。映画の中で上映される猛のゾンビ映画(この映画の上映に客がたくさん入る)をみていて、(あー、『殺しの烙印』…。)っておもった。若い脚本家たちが鈴木清順に挑戦して、清順はそれを受けて立ち、「力ある珍品」映画が撮れた。でもどうしてもそのあと鈴木清順が十年映画をとれなかったことや、再上映に招かれた脚本家がそれに無関心だった容子の方を思い出しちゃう。たぶん、映画1000本観てないからでしょう。この映画で一番いいのは、男同士の肉体的接触が、ごく自然に描かれているところだ。慰めるように猛を抱く映画館主(吹越満)、猛に社交ダンスを手ほどきする映写技師(渡辺裕之)、これ、男同士の愛の前段だけど、いやらしくなく、「よきもの」に受け取れる。映画館主と映写技師が主人公を包むのだから、『映画』って、この『銀平町シネマブルース』では男なんだね…。女の駆け出し監督(小野莉奈)も、「映画を撮る男たち」を撮ることで、映画1000本のボーイズクラブに、「仮に」「一回だけ」入れてもらえる。いいの?こんなことで?「給料はんぶんで」?そして「仮に」?佐藤の映画見ながら泣いてる正面の顔がいい。誰でも映画見て泣くとあのようになるよ。バイト美久(日高七海)の脱力した台詞回しがよく、嘘か本気か彼女に言い寄る渡辺(中島歩)が出色。小出恵介、地上波みたいな芝居、どこへ行ってもやるつもりなのか。小出のその芝居も、映画の中では時間が止まり、抱き留められてる体裁だけどさ。