渋谷TOHO 『Winny』

 俳優に水洩れがない。皆集中し、きっちりこなす。画面手前に映りこむ、脇役の少壮弁護士浜崎(和田正人)の、パソコン画面を畳む手つきすら充実している。すごいなー。ポッキーを食べるプログラム開発者の主人公金子勇東出昌大)、法律用語を台詞の地模様に埋め込んで違和感のない、pcに詳しい壇弁護士(三浦貴大)、刑事裁判に強い主任弁護人秋田(吹越満)のさりげない切れ味。金子の作ったWinnyというソフトを巡って、金子の逮捕、裁判へと展開する物語は地味で、リアルだ。東出はどうやら金子が好きである。だからどのシーンも品よく、すてきに演じられている。だが好きな分が弱みになり、「権威に弱い、疑うことのうすい金子」の困ったおどおどが足りない。一審の結審までの2年半が濃く語られる。

 (日本じゃ『RRR』は撮れないけど、『Winny』はつくれた)ぐらい思ってて、直後に松本監督の好きだという『シカゴ7裁判』を観たら。ちょっとー。全然駄目やん。「役者の集中が高い」とか、フツーやん。そんなの世界標準装備だったね。そこからがスタートだよ。

 『Winny』はエンタテイメントと、地味な硬派の映画と、どっちになるのか決めかねているように見える。皆川猿時のふざけるシーンと渡辺いっけいの多すぎる「悪者の目つき」が浮いていて、エンタメ風味だ。エンタメだったら無実のとこまで語らないとなー。手堅い映画だとすると、警察の不審な逮捕と裏金、という副筋の絡みが悪い。つっこみが深くない。正義派の警官仙波(吉岡秀隆)の第一声がなんといってるかキキトレナイ。裁判シーンは本職が模擬裁判をやっただけあって迫真だが、弁護士バッジは、古株の人のはきらきらしてちゃダメ。事務所の女性(桜井=木竜麻生)は弁護士なの?パラリーガル?裁判終わるまでの7年間やって、お茶がペットボトルになり、各自で飲むようになるまで見せればよかったのにね。