紀伊國屋サザンシアター オールナイトニッポン55周年記念公演 『たぶんこれ銀河鉄道の夜 ~The Night of the Milky Way Train(right?)~』

 上田誠によって、宮沢賢治の文章がうたわれる。きれいに、いい感じに、またはラップをうまく使い、ちっともいやではない。しかし、家に帰って手を洗いながら、「赤い目玉のさそり~」と、宮沢賢治作詞作曲の星めぐりの歌を歌うと、今日見てきた芝居がとんじゃう。宮沢賢治は、ださい。照れない。古い。だが、声は強く、言葉は美しい。彼の見上げる銀河は広大で明るく、タクシーの窓に心細くちかちか光る小さな星とは全然違う。ダイナミックなのさ。

 『たぶんこれ銀河鉄道の夜』は、『銀河鉄道の夜』を、全く知らない若い人に向けて翻訳する。いいよね。私は「現代語訳」と「賢治に失礼やん」を同時に思った。賢治を掘り下げるのに、これじゃあ、シャベルとつるはしを使ってるみたいだもん。けど、このガ・ガ・ガ・ガと掘るつるはしは、いいことも言う。「ファンタジーの一枚下はむき出しの思想だよ。」ここを!スコープで掘り給へ!そして見えない「ほんとうのさいわい」を見えないピンセットで引き寄せるのだ。ここが原作任せなのでデス・ゲームがまじ横道(おうどう)に見え、作中で登場人物が使うつるはしがほんとに悲しい。あと、自己犠牲を説く宮沢賢治に意見ないのか。

 場面が、美しいスクリーンとデザインされた文字と懸命に歌う俳優で三分割される。セットも映像だ。これ新しい。ただ、最初は役者が添え物のようだった。ナオ(久保田紗友)はきちんと描かれているのにカムパネルラのレナ(田村真佑)はもひとつ描写が定まらない、どう思って演じてる?久保田は生き生きしているが、押し開けるそのドアはどういうドアなの?「PUSH」って書いてあるやつ?ノブのあるやつ?ノブはどの高さにあるの?全然わからない。岩崎う大、台詞きちんといえてない。ぼんやりだ。