新宿ピカデリー 『仕掛人・藤枝梅安 第二作』

映画の「天」「地」を、豊川悦司の演じる梅安が、よく支えている。小細工しない。大らかに立っている。成長したねえ。

 その代わりと言っちゃなんだが、あとはいろいろテレビっぽい。これテレビ局の企画だよね。菅野美穂の前半の表情が動きすぎで、片岡愛之助の芝居が舞台。トラウマに悶える妻(高橋真悠)は家の中の、カメラでとらえやすいところで苦しみ、外へ飛び出したりしない。大切な心の動きは映像でなく、台詞で大方説明される。この世のものとも思われない悪党の井坂惣市(椎名桔平)も、どっちかと言ったらテレビサイズの芝居なのだが、一か所、夫の面前で妻を痛めつけるとき、夫を見やる目が、茫然というか、興を感じているというか、ほかのキャストよりもひと間向こうの襖が目の奥で開いている。闇だ。そのせいで、この人物には深みが感じられる。「こういう人物になっちゃったわけ」が、あの目に出てるのだ。さらけだすってたいへんだね。でも皆このくらいやってほしい。彦次郎片岡が綱を引くところとか、(あるいは惣市を発見するところとか、)もー。って言いました。憎しみが拡散しちゃってます。うすい!

 人を生かし力を与える医術(鍼医)と、人の死を請け負う仕掛人という矛盾した二役を生きる梅安は、彦次郎と、「あたしたちもいつかはこうなるんだろうね」「そうだろうな」と言葉を交わす。「生かし殺す」「復讐し復讐される」ってとこがテーマなんでしょうに、台詞にしちゃうだけで済ましてて、話の中から「生かし殺す」が背骨の椎骨の丸みを見せながら立ち上がり、豊川と並んで「天地を支える」ダイナミズムがない。

 井上半十郎の佐藤浩市さ、かつて『日本一大事にされてない俳優さん』(『顔』の頃ね)って呼んでたんだけど、大事にされるようになって顔にこんなにいい皺ができた今、昔と同じ芝居してちゃダメ、皺がものすごくものをいうから。梅安の衣装がすごくかっこよく、首に巻いているショールだの、街角を曲がる姿だの、うっとりしながら眺めた。少年の高橋來の眼の光の強さが出色でした。佐々木八蔵(一ノ瀬颯)、自分に対する信頼が足らないよ。