TOHOシネマズシャンテ 『オットーという男』

 管理したい男、オットー(トム・ハンクス)。半年前に妻ソーニャ(レイチェル・ケラー)を失い、定年を迎え、その管理欲はいよいよ、怒りのこもった厳しいものになっていった。通りに入ってくる車に目を光らせ、落ちている紙くずをチェックし、ごみの分別に没頭する。尊敬する大事な妻を失った今、彼をこの世に引き留めるものは何もない。そんな時、向かいにメキシコにルーツのある一家が越してくる。オットーの管理をかいくぐって、彼らはにこにこと彼の領域に入って来るのだった。

 スウェーデン版の『幸せなひとりぼっち』鑑賞済み。映画館では周りの中高年が、トム・ハンクスに泣いたり笑ったり、びしっと的に当たってる感じだったよ。けどなー。

 役者の顔には、何本もの軌道が走っている。軌道に乗せる貨車は、重量があったり軽かったりいろいろだ。いくつもの軌道の軽重を組み合わせることで、俳優は複雑な感情を表現する。今回さー、トム・ハンクスの貨車が、前半、軽い。昨今、日本の公園をめぐる、老人たちの煮えたぎるような「うるさい」という文句は、オットーを裏書きしているように思う。老人たちは不幸。気づいてないけどめっちゃ不幸なのだ。オットーはその不幸をすべて背負わなきゃいけないのに、背負いきれてない。軽いからだ。トム・ハンクス、ウェイトも皺も気にしなくていい役だけど、この不幸がリアルじゃない。気づいてない人の分まで背負う。後半の明るさが効かないよ。若き日のオットーを演じるトルーマン・ハンクス、撮影監督になりたいのかあ。撮影監督かあ…。こんなに眼の美しい俳優、生まれて初めて見た、と、心の底から衝撃を受けるが、それは俳優志望じゃないからかもしれないね。すんごい清らかだ。あのね、顔の下半分に軌道がまだないよ。表情がすごく少ない。『幸せなひとりぼっち』より回想シーンが少ない分、頑張らないと。むすっとした撮影監督ってありなの?コミュニケーションとらないとだめじゃない?もっとたくさん人と会話したほうがいいよね。