配信 大人計画 ウーマンリブvol.15『もうがまんできない』

 塔屋に落書きいっぱいのおんぼろビル(サウナとお笑いの劇場がある)と、最新のマンションが軒を接して建っている。そこにアナログ時計が一つ見え、「流れる時間は同一ですよ」と観客に教える。おんぼろビルの屋上では、出番を控えるお笑い芸人のコンビ(サワイ=仲野太賀、スミダ=永山絢斗)がネタ合わせをしており、高級マンションではゲーム会社の社員(ゴンゾー=阿部サダヲ、ハニュウ=宮崎吐夢)が社長キノシタ(宮藤官九郎)への誕生日サプライズの相談をしている。二つに分かれた空間がいつの間にか混ざる。互いに劇場のように見え、状況を眺めあい、ゲーム空間を共有し、干渉しあう。マンションのキノシタの不倫している妻(平岩紙)は、面差しがどことなく、デリヘルの少しゆっくりした娘ノンチャン(中井千聖)に似通っており、キノシタは娘の父カンダザキ(皆川猿時)と立場が似ている。うまくやっている主婦の空間を、ノンチャンの「バカとヤリマンどっちがえらい?」という問いが切り裂く。のだけど、その問いはどんどんずらされ笑いの中に溶かされてゆく。不倫やただれた恋愛関係がばれ、おいつめられたゴンゾーと、コンビを解散する羽目になるサワイが鏡で照らしあい、何かが欠落しているスミダとノンチャンの間にも鏡があるような気がする。この芝居では鏡が対称に働くというより、パスを出すように互いを映しあっている。んー。ここまでいいけど、すべてすんごい埋めてある。自分以外は皆見えるが、自分のことだけ見えてない。VRゴーグルをカンダザキがマンションに「取りに行こうか」というと、キノシタはさりげなく、ほんとにさりげなく、「それはちょっと」というのだ。埋めすぎじゃないの?結果、おもしろいのか、面白くないのか、よくわからなくなっている。平岩紙のすこし倦怠感のある台詞回しにリアリティがあるが、最後のカンダザキとのやり取りの爆発力がいまひとつ。阿部サダヲの追い詰められ感、宮崎吐夢の激しい嫉妬が、よく見えない。笑いを取って「演劇」が軽くなってる。