明治座 『水谷千重子50周年記念公演 大江戸混戦物語 NINJAR ZONE』

 「水谷千重子50周年記念公演」のパンフレットの最初のご挨拶は、「水谷とたった二人で創業した」社長のそれから始まり、正体を匂わしたり決してしない。「水谷千重子を生きる者」が、どれだけ強い意志でそれを貫き徹そうとしているか、容易に想像できる。なみなみならない決心よね。

 ならば言わせてもらうけど、まず音響。頭につけたマイクの音響が悪い。そして、山崎銀之丞と原金太郎以外、冒頭で芝居する全員の滑舌が悪い。ピッケル氷壁にきちんと打ち込まれていない。滑落するよ。台詞が「流れている」。特に水谷千重子は上唇と下唇をつけないのか、台詞が聞き取れない。50周年も三度目なのに、これじゃいかん。原案・脚本・演出の実体がわからない。これで責任とれるのかなあ。筋がよく、わからなかったけど…。テンポが悪く、YOUやバッファロー吾郎Aなど、使いこなせてないやん。的場浩司ももったいない。いいのは、全員を必死になってアイガー北壁に引き留め、ひっぱり上げる山崎の台詞。けど一本調子。

 殺陣がすばらしい。生駒里奈は危なげなく刀を操り、的場の浩十郎に華がある。一内侑も腰が決まっていて、何より、平野泰新の、トンボを切っての殺陣の「手」が目覚ましく、(おお!)と目を奪われる。この「手」を付けた人(坂田龍平)ガッツポーズじゃないの。すごいもん。舞台では、顔ネタはあまり映えないかも。しかし、きれいなものを見せられてよろめくハリセンボンの春菜の身体性を評価する。

 後半の歌謡ショー、ガタイ良く、白の「半袖タートル」のうえに、「皮膚のように」ぴったりのジャケットを着ている倉たけしの強引な変面でわらった。ローテクが効いている。それに出番全部が、古い芸能——昭和、戦後——を批評するみたいだ。千重子とのデュエットがとてもいい。練習を感じた(特に3番)。水谷千重子、歌うまい。瞠目のうまさ。でも歌手だった。歌手なら、アイドル歌唱で表情なく伸ばす音とかありえない。4回目の50周年待ってます。