伊藤四朗生誕?!77周年記念 『吉良ですが、なにか?』

 事前にかってに予想していたあらすじと、ぜんぜん、違っていた。内蔵助はどこ?梶川与惣兵衛(日記書いた人)とか、出ないの?え?吉良ですがなにか、と観てる自分に聞かれている気さえする。

 幕が開くとそこは病院。「禁煙外来始めました」というポスターが貼ってある。目を疑う。下手奥から来た廊下が正面の待合室につながって、上手手前に診察室に向かう廊下が見えている。この廊下は袖奥で鍵の手に曲がるという凝りようだ。待合室には見晴らしのいい窓があって「江戸城」らしいものが見えている。(「江戸城」が?)

 このセットを医師(ラサール石井)が小走りで下手から上手へ抜けていく。とても感じのいい走り方、とぼけているような、そうでないような。思い返すと、あの走り方が芝居の芯となっている。舞台には三人の姉妹と夫たちが現れ、けがをした父親の容体を心配している。どうやら、その父親が吉良というわけらしい。

 ぐにゃり

 何度も時空が湾曲、どこにいるのか見定められなくなる。登場する人たちは現代劇なのに、肝心の父吉良(伊藤四朗)はちょんまげに白い着物(寝間着)を着ている。観ているこっちは動揺。しかし話も吉良もちっとも動揺する気配なく悠然と進む。吉良の愛人しま(戸田恵子)が活躍。しかし、舞台に一度も登場しない吉良の妻の存在が、だんだん濃くなってくる。

 シーンが変わると吉良の屋敷、スーツ姿だった家臣コバヤシ(阿南健治)も裃を着ている。あっ歴史もの、とほっとする間もなく、いろいろ言い分もあるだろう吉良上野介は、軽やかにすうっと、消えてしまうのだった。どのシーンも面白いのだが、しっくりこないうちに終わってしまった。これは相撲でいう処の「変わる」というやつではないだろうか。阿南健治の表情を見るのが楽しみだった。