…2回見ちゃったよ。1回目は予備知識なく見たから何が何だかわからなかった。トラックで運ぶあの大きな箱は何?レゲエのバトルって?結局この人たち、チームなの?ジャーって何? ようやっと私に伝わったのは、恐ろしいほどとげとげしい景色——砂利、泥濘、…
囲い込まれた私たちは戦いを見、憎悪を見、そして愛を見る。ただ見る。見るだけだ。それは「演劇」という幻かもしれないし、もしかしたら何かのゲームなのかもしれず、ひょっとすると客席と地続きの現実——ウクライナ戦争やコロナ――であるかもしれない。それ…
こんなところに、「ロマンチック」は生き延びていた。いろいろ文句が多い、恋愛ものを見ても「あー、はいはい」という、そんなひねた私も『アナスタシア』にちょっと黙ったのである。体の中の、「ロマンチック」の干乾びた函が、魔法の水で蘇る。 革命のロシ…
下級貴族の妾腹の子光蔭(浜中文一)と、下人として使われる孤児草介(辰巳雄大)、口のきけない不思議な力を持つ少女とわ(菅原りこ)の、千年続く人生ともつれた愛。ふむふむ。浜中のとても緊まった、これ以上ないトーンの声が、キーボード(伊藤隆博)、…
「でも、50代が見えてきたときに、俳優として自分を捉え直さなければ」と、 言うたね。そんなら私も言う。伊藤英明、身体が硬い。柔軟性がない。だから台詞を忘れたとき、ぽきっと真っ白になる。まず体を柔らかくする。それから、眼で戯曲を読んだ時に、「台…
おもしろいじゃないの!と感心するのだった。斎藤工ってすごいね、どこからどう来てどうなった人なの?とか、そらこれだったら福山雅治出資するやろ、とか思った。後半、ものすごく面白い。手に汗握る。意外な展開。そして怖い。夫(窪田正孝)は妻(蓮佛美…
恋が浮世か浮世が恋か、とうっすら流れる地歌が、じわっと100席の洒落た円形劇場の空間を変える。玉三郎が、うちの狭いリビングに来たみたいに近い。肩が黒(いい黒!)で、下のほうが薄い藤色になっている着物は、「こぼれ松葉に梅」の裾模様だ。清長の浮世…
図式。日本人が国を奪い、その民を虐殺する朝鮮から帰ってきて、福田村で百姓になると決意している元教師澤田智一(井浦新)は、いつも画面の端にいる。空白の心を、それは示す。んー、そうだね、でも実のところ、そうした仕掛けは心を打たない、それよりも…
キタイニコタエル 日産スタジアムを埋める、5万だか、6万だかの観客を眺めながら、そこんとこを考えていた。5時48分、風は3メートル、気温30、1℃、ステージの温度は32,9℃だ。期待に応え、応えして、本日B’zはとうとう35周年ライブを行っている。会場に来…
「ははあ。」というのであった。時折劇場で見る西洋の俳優の体幹は分厚く、ツイードなどのジャケットを着ていても、ああジャケットが喜んでんなーと思うくらい、「隆(りゅう)としている」。中井貴一が躰鍛えているとことさら言ってるのを見たことはないが…
さりげなく、とてもさりげなく客席を巻き込んで芝居は始まり、大きな無機的なパネルに囲まれ、グレーの机にグレーの椅子が置かれたその場所は、「稽古場」であり、「青森」であり、「東京」であり、また「舞台」「劇場」である。「宇宙」であり胸の裡である…
芝居のぉ!足がぁ!みじかぁああい!凧のしっぽがなくてぐるぐるまわってる!景色が見えない!これフランスの芝居でしょ?フランス人てみんな試験ですごーく哲学的思考とか論理的展開を勉強するんじゃなかったっけ?「芝居の芯」を運ぶ足、凧に重さをつけて…
入場時間の4,5分前に南座につく、こんなに暑いからだろう、もう開場したといっている、劇場の中はぴーんと冷やしてあり、左手に「とらや」の暖簾が見えて、えーとらやでお茶ができるんだなと思うのだ。席に着きながら上を見上げると、やわらかいアールで囲…
「宮崎弁で劇作する」、それについてわたし、誤解していたみたい。たとえばボール紙の円盤に、都道府県の名前が細かく割って書いてあり、その中心から赤い矢印が出ている。この矢印は動かせて、どの土地の上にも来る。そしていま、矢印は偶然「宮崎」の上に…
小さくひとすじ、音楽が鳴り、それが生で演奏されるギターの独奏だとわかる。音楽は舞台の内側に聴こえていて(神社の境内でただギターを弾く人だと台詞で説明される)そして舞台の外、観客の私たちの耳に届いている。ギターの演奏(水村直也)は、つぶやく…
「雷門の先、二つ目の通りを右折、」観光人力車のお兄さんに教えてもらって角を曲がる。ぎらりと白く道が光り、暑いぜあさくさ。浅草公会堂の今日は、尾上右近の自主公演第七回『研の會』だ。 演目は『夏祭浪花鑑』と『京鹿子娘道成寺』となっている。門外漢…
私の席の周りからは鼻をすする音が聞こえ、忙しくハンカチが取り出され、終演後には思わずといった感じで立ち上がる人もいる。ねー。舞台に掛ける合格点の芝居って、せめてこのくらいじゃないとダメでしょう。 一軒家に一人住む男高梨次郎(山口祐一郎)。彼…
はーい、『あの空を。』別メンバーで、もういちど。一言で言って、今日の人たちは、最初から集中していた。初日メンバーは、初日だということでなにかと気が散ったのか、中盤まで集中が今一つだったのと、ボールとか本物握らせてもらえなかったんだよね。今…
ヴァイオリン(向島ゆり子)、ヴァイオリン(会田桃子)、キーボード(江藤直子)の三つの組み合わせなのに、音が厳しく、弓は自在に弦の上を走り、鋭く深く鳴り、弾き手が思った通りの、思った以上の、いい音楽がうまれる。この『ピエタ』の音楽、よかった…
2020年、中止になった夏の甲子園——全国野球大会と、その大会を目指していた3人の高校生のその後を語る。 語り手と37歳独身のOBを升毅が、マネージャーのサワムラ(テルテル)を安井一真、ピッチャーヒロトを小澤雄大、苦い転落を味わうマツオを加藤大悟が演…
Take Me For A Ride のオーケストレーションの(?)カラオケ(?)に乗って、バンドのメンバー、ロン・メール、最後にラッセル・メールが現れる。テイクミー、テイクミー、テイクミ、テイクミ、テイクミ、フォーアラーイド。ここ数日、スパークス聴きっぱな…
『猫の恩返し』(2002)の、塔の自壊を見た時、そらもう驚いたもんだった。えー、ジブリの若手、塔(宮崎駿)の自壊待ってんのー?頑張って競(せ)ったりしないんだー、そんだけすごいんだー。と、いうような感慨だったような気がする。ちょっとー、も少し…
花道に立った羽織袴の端然とした男の人の中に、とつぜん、江戸時代の身振りが忍び込んできて、カクンカクカクキリッと「見得」を切るのだった。「社会人のための歌舞伎鑑賞教室」の解説は澤村宗之助だ。私の席は花道横だし(わーい)、アナウンスは落ち着い…
うつろな心。うつろな心はうつろな家に棲んでいる。麦野早織(安藤サクラ)と息子湊(黒川想矢)の家は、やけに音が響く。まるで、どこかに朽ちた洞(うろ)があるみたいだ。湖のほとりの町の中心部で火事が起きている。燃えている。古い雑居ビルの看板が、…
幕が上がると二双の金屏風の前に中村橋之助が平伏している。橋之助はきりっとした声でこの興行がかなったことのお礼を言い、3年前のコロナ下に、「神谷町小歌舞伎」の構想が立ち上がったことを述べる。一か所言いそこなったけど、左右をきっとみて、お辞儀を…
今日、この芝居初日。特撮ヒーロー番組を作っている「東特プロ」の制作、岸本次郎(林竜三)の第一声が、「東特プロの世界」を召喚するのに失敗してました。ここからしばらく、芝居がすんごいぎこちなかった。それは衣装のせいもある。80年代後半から90…
チケット売り場前の、小さいお知らせ看板に、びんびん反響するスタッフの声を聴いた時から、悪い予感はしていた。この演出の人、聴覚に繊細さを欠く。さーさーという音は「雨」ではなく、「雨の体(てい)」だったし、俳優が舞台から姿を消しているとき聞こ…
まず、「とにかく明るい安村 安心してください」で検索。そこからだよ。なんにも知らないんだもん私。イギリスの人と一緒。 幕が開いてからの坂本龍馬(東貴博)の台詞が、おりょう(檀れい)のことを言っているのか、それともうっすらした未来の記憶なのか…
今日の仁左衛門は、「いがみの権太」。ゆすりたかりで日銭を稼ぐ小悪党だ。でも黙阿弥みたいなピカレスクロマンではない。「いがみの権太」を家庭生活から照射する、ちょっと変則な、江戸時代の作品じゃないみたいな役なのだ。つまり、仁左衛門が、この役を…
雲散霧消。人物の一人一人、出来事の一つ一つが、VRを覗くのをやめた人みたいに(のぞいたことはないのだった…)全部消えてしまう。 すべてはヴァーチャルだ。ということは、実は、すべてが現実なのかもしれない。1960年代、盛り上がった「つよがり、思…