ヒューマントラストシネマ有楽町 『草の響き』

「その六月、どんなあてもなかった。」(佐藤泰志『草の響き』) 素晴らしい書き出しだ。身体の中に暗い空洞が見える。そこは塗り込められたように真っ黒で、目を開けていても閉じていても、大して違いはない。手を伸ばしても何にも触らない。その場所に佐藤…

Bunkamuraル・シネマ 『TOVE/トーベ』

「お互いに、ああしろこうしろと押し付けないで、ただ一緒にいるだけでは駄目なの?仕事だけじゃない、人生についても、そして考えることについても自由でいたい。上下関係をもたない生き方」(『トーベ・ヤンソン 人生、芸術、言葉』ボエル・ヴェスティン著…

パルコ劇場 PARCO Produce 2021『ジュリアス・シーザー』

芝居の帰り、ターミナル駅始発電車の運転手は女性だ。先頭車両の正面と側方を指さし確認して、小柄でロングヘアの彼女はドアを開け運転席へ入ってゆく。思春期の少女たちの鬱、というか無気力状態を改善するためには、社会のあらゆる分野で活躍する女の人の…

代官山 晴れたら空に豆まいて 『LIVE MAGIC !2021 EXTRA』

すんごくくじ運のいい40人の人々が、次々に「晴れ豆」に入ってくる。わくわくしてる。身体が楽しそう。バラカンさんのいる上手後方から順に、席が詰まっていく。ふと上方をみると、照明を吊るすパイプがかすかに湾曲し、端でミラーボールが控えめに回って…

新橋演舞場 花柳章太郎 追悼 『十月新派特別公演』

『小梅と一重』あのー、下座の音楽が大きすぎて、小梅(河合雪之丞)が出てくるまで台詞が聞き取れない。小梅が出て来てようやく、この芝居に色彩が載る。たぶん、一重(水谷八重子)が「一中節」の師匠であることから、一中節がすごく重要なのでは。水谷の…

東京建物ブリリアホール 岩井秀人(WARE)プロデュース『いきなり本読み!in 東京建物 Brillia HALL』

戯曲を黙って一人で読む。ああ、これ、こんな話なんだな、はいはいと思う。面白いシーンに笑ったりする。つまらないシーンを残念だなと思う。光線は天から降り風はそよそよ、世はなべてこともなし。で、他人が読みあわせるのを聴く。すると、中に、圧倒的に…

シネクイント 『MINAMATAーミナマター』

「誰のための映画か」という問いと、「写真は誰のものか」という問いは、少し似てるね。 チッソ社長ノジマ(國村隼)の、「この人は(ユージン・スミス)一人で来たの」という台詞が日本語の台詞の中で一番いい。「この人」、微妙な距離と、小さな畏敬。國村…

新宿ピカデリー 『キネマの神様』

「香港映画みたいな人がいる」 「え」 レストランで振り向くとそれは沢田研二であった。えー沢田研二ー。幼稚園の時好きだったタイガースー。とその時私赤くなってたと思うけどそんなことはどうでもいい。それは12、3年前、沢田研二は恰幅のいい(ていうか太…

すみだパークシアター倉 KAKUTA第30回公演 『或る、ノライヌ』

断念の物語。と纏めるのは簡単だが、まずは題名の「ノライヌ」でひっかかってしまう。ノライヌ小学三年以来見たことないよ。ってぶつぶつ呟きながら舞台を見ると、肩寄せ合うように並ぶ5本の電信柱が、ここは重層的な空間ですよと控えめに教えてくれる。 201…

TOHOシネマズ日比谷 『マスカレード・ナイト』

「練りに練った緻密な脚本」(パンフレット)。何に向かってどう練った。推理物だから筋は練ったのかもしれん。しかし、台詞はどうよ、台詞は。新田刑事(木村拓哉)の「あなたのその眼は…」という大切な台詞、係り結びがおかしいぞ。作品以前に文法が問題、…

TOHOシネマズシャンテ 『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放送されなかった時)』

それはコンクリートに生えたバラのようだった、と回想される。 1969年、ちょうどアポロが月に着陸した日にも開催されていた、ハーレム・カルチュラル・フェスティバルは、高まる黒人の不満(リベラルな政治家や黒人解放運動の重要人物の暗殺、いつになっても…

シアタートラム 劇団青年座第242回公演『ズベズダ――荒野より宙(そら)へ――』

日露戦争でもスターリングラードでも、ロシア(ソビエト)の兵はたしか「ウラー」と叫んで敵に攻め寄せてたよ、と思っちゃうのは、この『ズベズダ』のソビエトのロケット研究者たちが歓声を上げる三つのシーンのうち、最後の一つでしか「ウラー」と言わない…

東京芸術劇場 シアターイースト 『カノン』

閉塞感!出られない!という気持ちが、冒頭、舞台に飛び出してきた役者たち(見たことあるようなプロジェクション・マッピング)を見ながら付きまとう。空の額縁に取り囲まれたここは、テレビやネットに心を支配されている私(或いは彼)の、たった一人の部…

観劇三昧 小松台東 『ツマガリク~ン』

朽ちかけの、電線を巻き取る巨大ボビン(?)が、ちょっと怖い。古いベンチや機材が投げやりに積み上げられ、フェンスで仕切られている。このくすんだ廃墟を隔てて、休憩用の屋外すいがら入れと、ベンチが中央にある。ベンチだけが、あざやかな青空色。 上手…

配信 DULL-COLORED POP 『丘の上、ねむのき産婦人科』

ずいぶんよく調べて書かれている。医療の監修や、ジェンダーの観点からの監修も入っている。だからたぶん、あきらかな思い違いというのはほとんどないのだろう。谷賢一は善意の男性で、出産の「当事者性」を掘り下げながらこの作品を書いた。19歳の専門学校…

シアタートラム ケムリ研究室no.2 『砂の女』

幕開け直前、オペラ『道化師』の「衣裳をつけろ」がモノラルで流れる。独りよがりにも聴こえる悲壮なテノールだ。あっそうだ、公房の『砂の女』ってモノラルで、単眼だよねってなった。冒頭の「地の文」は男(仲村トオル)の声の高さにそろえてあり、家を出…

Bunkamuraオーチャードホール DISCOVER WORLD THEATER vol.11『ウェンディ&ピーターパン』

ミスター・ダーリング(堤真一)は登場しながらもう、ミセス・ダーリング(石田ひかり)の唇の上に浮かぶ「謎めいたキス」について語る。あそこ、きもだね。戦争ごっこの仲間に入れてもらえない女の子のウェンディ(黒木華)は、「おねがーいなかまにいれて…

配信 大パルコ人④マジロックオペラ 『愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』

真面目にいっちゃうと、あの「宮下公園リニューアル」は、看過してはいけない問題だった。企業に委託し、再開発して「入れない人」をつくる。公共の空間なのにだよ。メンタリストの素(もと)だよね。宮藤官九郎はむきつけにそんなことは言わない。しかしオ…

『ほぼ日の學校』

「サブスクリプション意味がわかんねえ~」(桑田佳祐)と、いう世代であるために、サインインがめっちゃ大変。一か月無料。入るときに「自分に名前をつけろ」といわれてすんごい恥ずかしかった。自分で自分に名前をつける。なにさ。はずかしい。慣れない。…

彩の国さいたま芸術劇場小ホール さいたまネクスト・シアター最終公演 『雨花のけもの』

――あー、バット折れてる。 と、作の細川洋平にも、演出の岩松了にも、ネクストの俳優たちにも、言いたい感じ。不能と去勢の登場する世界、それを権力が規定する世界、岩松は「善悪詳らかならざる世界」を提示したかったのか。その結果人物の欲望がぼやけてし…

赤坂レッドシアター プリエールプロデュース 『マミィ!』

うわずっていた。 母小須田咲(熊谷真美)と、実家を訪ねてきた娘来奈(らいな、宮崎香蓮)のやりとりが、もんのすごい音域あがっているうえに互いに近寄っていて、どちらも役柄を打ち消しあっている。特に熊谷真美は主役であり、15年も蒸発していた夫和久(…

紀伊國屋ホール ラッパ屋 第46回公演 『コメンテーターズ』

ワイドショーのプロデューサー真行寺(岩橋道子)はお買い物好きという設定で、両手にたくさんのショッピングバッグを持って登場する。ショッピングバッグの大きさは均等で、「お買い物好きのリアリティ」ははっきりいってない。しかし、その嵩張るバッグを…

Bunkamuraシアターコクーン COCOON PRODUCTION 2021『物語りなき、この世界。』

あのー。「人は無意味に耐えることはできない」っていう、古い推理小説を読んでから、あっそうなのねと物語を疑うことをしてきませんでした。それと世の中の物語を求める人、物語に乾いている人って、不幸せな人が多いと思う。いいとか悪いとかではなく、今…

新国立劇場小劇場 新国立劇場 演劇 2020/2021 『反応工程』

「あっホールデン・コールフィールド」正枝(天野はな)が田宮(久保田響介)に「逃げずに戦争へ行け」と破れた赤紙を握らせるところで、場面は凍り、孤独の中に田宮は残される。サリーは来ない。小学校しか出ていない正枝と大学へ進むであろう優秀な田宮、…

帝国劇場 『レ・ミゼラブル』

ものすごい音量で荘重な前奏が聴こえるとスクリーンに波しぶきが見え、ヴィクトル・ユーゴーの本の世界が観音開きになって、「レミゼラブル」がなだれ込んでくる。 ガレー船漕ぎ、いちいち芝居が大仰だよと言いもあえず、全てのシーンが並列に矢継ぎ早に繰り…

シアタートラム 劇団チョコレートケーキ 第34回公演 『一九一一年』

男は泣かぬがよし とされた明治末期にあって、大逆事件の予審判事を務めた田原巧(西尾友樹)の目の裏側、身体の内側に、さんさんと涙が流れ落ちている。後悔、無念、慙愧、それらすべての思いを込めて、「内側に涙が流れる」。その涙の音を観客は聴き、気配…

シアターオーブ 『ジーザス・クライスト・スーパースター・イン・コンサート』2021

んー。今日のラミン・カリムルーちょっと上ずってない?しかも、それが役柄のユダの動揺してるのとなぜか同調していて、動揺だか上ずってんのかどっちかわからない仕上がり。冒頭のギターソロは重さを掛けずさっと進め、照明はテレビだったら怒られるくらい客…

世田谷パブリックシアター 『森 フォレ』

装置家のつくりだした、大きな木の年輪の、傾いた舞台セットが、理詰めでこの芝居を説明してくるにもかかわらず、私のイメージはずっと、ここは(子宮)の中なのだという、どっちかっていうと強迫的な感じであった。「子宮」という日本語は、かつての男たち…

座・高円寺1 劇団扉座40周年記念 『解体青茶婆』

洋学史上、医学史上に大きな名を残す杉田玄白(有馬自由)は、83歳となっている。彼が『ターヘル・アナトミア』を翻訳したいきさつを記した『蘭学事始』には、記載されていない事実が多く、前野良沢の名前もない。それを校訂すべく、弟子の大槻玄澤(山中崇…

あうるすぽっと serial number06 『hedge1-2-3 sideA hedge/insider』

や、台詞の言い方修正したんだね。わざとらしいところがなくなってる。と思ったのもつかの間、次の瞬間物凄い悲哀が訪れる。資本を「投入」が、「豆乳」に聞こえる自分の人生に、ショックを受けるのだ。愛とお金と健康、大事な三つの物のうち、私、「お金」…