渋谷PARCO WHITE CINE QUINTO 『PERFECT DAYS』

「まったくね、西洋の人たちはあたしたちが、みんな盆栽好きの庭師だったらいいと思ってんのよ、」と、頭の中で大きな声を出してみる。「それと小津ね」。もちろん『東京画』(1985)には感謝してる、あれがないと、私小津映画観なかったかもだもん。 本作の主…

シアタークリエ KERACROSS 5 『骨と軽蔑』

ものすっごい切れ味、と思うのだ。刀鍛冶の打った包丁で、牡蠣をまっぷたつに切ったみたいな、ぬるくない業物の幕切れだよ。すぐそばを砲弾の飛び交う戦争(自国の戦争)、こどもが駆り出される戦争、その中で、金と権力を手にした女たちが、厳しく辛(から…

キャナルシティ劇場 『オデッサ』

そっかー。「愉快」で同時に「愛憎深く」、この矛盾した命題を充たすためには、「推理もの」だよね! しかもただ推理ものじゃつまらないから、警察官カチンスキ―(宮澤エマ)は英語で話す。被疑者コジマ(迫田孝也)と留学生スティーブ日高(柿澤勇人)は鹿…

博多座 二月花形歌舞伎 『江戸宵闇妖鉤爪』『鵜の殿様』 2024  

「あ、ちょちょちょっと待ってて、いま読んでる本佳境だから」と江戸川乱歩『人間豹』の画面の上に出た「着信」の赤と緑の丸に慌てる。いやーおもしろかった人間豹。これ舞台、しかも歌舞伎にしたくなる気持ちわかる。妖しくて怖く、そしてその妖しさと怖さ…

東京建物 Brillia HALL 『舞台 中村仲蔵 ——歌舞伎王国 下剋上異聞——』

「中村仲蔵」。破れた蛇の目傘の水を切る、びゅっという音が聞こえ、その飛沫が見える。傘を握る仲蔵の細くしろい骨ばった手、黒い着物、朱鞘(しゅざや)の刀まで頭の中で順に思い浮かべてから「…かっこいい。」っていう。顔は、そうだ、やっぱり、藤原竜也…

文京シビックホール 大ホール 『坂東玉三郎 ~お話と素踊り~』

文京シビックホールに向かうため、シャーベット状の雪をしゃくしゃく踏んで歩いていると、今日は玉三郎の地歌舞『雪』をやるのに雪が降るとは、なんてあたしは賦がいいんだろとにこにこしてくる。 この地歌舞というのは、狭いところで踊るもので(パンフレッ…

本多劇場 加藤健一事務所vol.116 『サンシャイン・ボーイズ』

BEN: You’re not happy. You’re miserable. WILLIE: I’m happy ! I just look miserable. 脚本読んだ時、ははは。と、ここすごくわらってしまった。マネージャーで甥のベン(加藤義宗)が、伯父のコメディアン、ウィリーに無聊で淋しい生活を指摘するシーン…

東急シアターオーブ ミュージカル『オペラ座の怪人 ~ケン・ヒル版~』

脳みそが、「PHAAANTOM OF THE OPERA IS THERE~」漬けになるほど聴いてきたら、全くの別物だったこの驚きよ。 あっちが年嵩の男、年若の男、そして若い娘の三角関係を描くものだとすると、こちらは全てが慎ましくベールをかぶっている。そして、「あれ」が…

TOHOシネマズ日比谷 『カラオケ行こ!』

「おもろいやん」二音ずつ下がってくる関西弁(しかも脱力)でつぶやいてしまうような映画。 黒い細身のスーツで現れる歌下手ヤクザ、狂児を演じる綾野剛が、こちらの視線を一瞬のダレも緩みも許さず吸い取ってゆく。綾野は画面上のゆるく自由な自分を、息を…

浅草公会堂 『新春浅草歌舞伎 2024』

今日の芝居は、大恩ある人のために、わが子を身代わりに差し出して死なせ、そこから決して回復できない男の話『熊谷陣屋』と、くるくると男、女、幼児、老婆に入れ替わって踊る『流星』、妹を殺された男が深く酔って、妹の奉公に上がっていたお屋敷に暴れこ…

IMM THEATER こけら落とし公演『斑鳩の王子—戯史 聖徳太子伝—』

「戦がない世の中」について、本気で考えた男、聖徳太子(明石家さんま)。先の世が見通せる千里眼をもちながら、彼は滅亡する息子山背大兄王(中尾明慶)に何も言わない。戦の火種が小さく熾り、徐々に育ち、ついに秩序を暴力でひっくり返すまでの過程に、…

明治座  日本テレビ開局七十年記念舞台 『西遊記』

鉄扇公主(中山美穂)が大きな芭蕉扇を必死で振り、孫悟空(片岡愛之助)はさらりと宙を飛び、気合一閃トンボを切る。藤原紀香はすっごくお釈迦様っぽく、金角銀角(藤本隆宏、山口馬木也)はまじめな体をコミカルに動かし、若い俳優たちは異様に身体能力高…

スパイラルホール 生誕60周年記念art show 個展 『松尾スズキの芸術ぽぽぽい』

北九州ってね、土から工場が生えてるような街でね、なんか、植物(PLANT)と設備(PLANT)が分かちがたく一つになってて、人体は硬く・柔らかく、すべてが生き物で、また、すべてが死んでるような気もし、かしわめしが有名で、栄えてさびれてる、そんなとこ…

吉祥寺シアター 『ハイ・ライフ』

撚れてかすれる自分の声を逆手にとって、東出昌大は「そんな声をしてるやつ」を舞台上に作り出そうとする。いいね、いいと思う、そろそろそんなことに挑戦してもいい頃さー。ディック(東出昌大)は銀行強盗を計画して、凶暴なバグ(阿部亮平)と、クレジッ…

東京芸術劇場シアターイースト 『Dojo WIP 東京演劇道場ワーク・イン・プログレス』

プロセスが大事、プロセスが大事っていうけれど、ま、本当にプロセスが大事だな、と、急速に悟った本日です。 今日のワーク・イン・プログレスの中で一番見やすかったのは『淋しいおさかな』(演出・藤井千帆、演出補・鈴木麻美)だった。完成度が高く、表現…

東京芸術劇場シアターウェスト 劇壇ガルバ 第5回公演 『砂の国の遠い声』

んー。どうしたかったこれ?装置(美術:松岡泉)はきちんと仕事をして、秘密を解き明かしているのに(上へあがってゆく階段と、それと対称な「下」へとさかさまになっている階段)、肝心の芝居は?今まで何も起こらず、今も変わりなく、これからも何も起き…

小倉城勝山公園内 特設劇場(福岡県北九州市) 北九州市制60周年『平成中村座小倉城公演』

『義経千本桜』、「渡海屋」「大物浦」。今回の公演で一番良かったのは、花道をやってきて、その存在感で舞台を支配する勘九郎の渡海屋銀平でござる。登場シーンね。あの空気感が、演目、演目の乗っかる日常を、芝居小屋の非日常へと押し上げ、非日常の中に…

紀伊國屋ホール 『ガラスの動物園』『消えなさいローラ』

10000円で2本の芝居を連続上演・幕間15分?と、戸惑いがちだった客席も、後半の別役実作『消えなさいローラ』で、ウィングフィールド家の稼ぎ手の息子トム(尾上松也)のセクシュアリティが、レースのカーテンをさっと掲げるように明らかになり、ロ…

シアタークリエ 『ビロクシー・ブルース』

キャラを立てろ!もー、これしかいうこと思いつかん。 第二次世界大戦で戦うため、服従を叩き込まれる6人の新兵の顛末を、1943年の召集と1945年の復員から語る。ひとりはこれまでユダヤ人を見たことがなかったし、語り手(ユージン=濱田龍臣)と引越トラッ…

下北沢 小劇場B1 TAAC『狂人なおもて往生をとぐ』

パンドラの箱が空いて、あらゆる悪徳、秘密がガサゴソ、ちゅーちゅー飛び出しているような現代と同じように、1969年ごろの日本でも、いろんな禁忌がさらけ出されつつあった、でも、近親相姦や教師の痴漢の衝迫力は、69年のほうが何倍もすごかったような気が…

御園座 『片岡仁左衛門 坂東玉三郎 錦秋特別公演』

名古屋の駅に降りたことはあったけど、名古屋の街に出たのは初めてさ。もー、駅前の「大名古屋ビルヂング」の威容と(でかい)、「大」の矜持にちょっとおどろく。ええー、そんなこと、なかなか自分じゃ言えん。すごいビルだけどさ。御園座に『東海道四谷怪…

恵比寿ガーデンプレイス ザ・ガーデンホール&ルーム 『2023 PETER BARAKAN'S LIVE MAGIC』

黒いひだの寄った、背後の黒い幕に、紫と青の明かりが交互に当てられている。その上にはLIVE MAGICと書いた大きなパネル。 バラカンさんが登場して、4年ぶりにフルサイズの開催ですという。合間の時間に余裕を作り、パフォーマンスも長めだって。四階にはマ…

東京芸術祭 2023 芸劇オータムセレクション 太陽劇団(テアトル・デュ・ソレイユ) 『金夢島 L'ILE D'OR Kanemu-Jima』

「変やない?」その一言で、沙汰やみになった、「ノーズパテ」であった。せっかく専門店で、演劇部の予算使って買ったのにね。昔々、「東京の演劇」でも、顔を彫り深く見せるため、「ノーズパテ」で工夫していた。そこには西洋人に見えないということの焦燥…

TOKYO DOME CITY HALL  『TEDESCHI TRUCKS BAND』

聴けぇ、デレク・トラックス!て感じの導入。 最初の曲はI Am The Moonの中の最初の曲、Hear My Dearだ。めずらしく、デレクが勝手に弾くのだ。ぜーんぜんバンドの音を聴かない。聴かないってことはバンドを調整しない。すごく前に出る。ファニーな音がする…

Billboard Live YOKOHAMA 『ニック・ロウ』

ビルボード横浜、来るのは初めて、勝手がわからない。会場内に案内されても、どこが正面か見当がつかず、右見たり左向いたり、やっと正面の赤い緞帳(かっこよく襞に当てられた照明)の前に置かれたマイクと一本のギターの背面を見つけて、(こっちが正面か…

よみうり大手町ホール 『レイディマクベス』

んんん?なんか、散らかってない?しかも、むずかしくしてない?マクベス家の3人(マクベス=アダム・クーパー、レイディマクベス=天海祐希、娘=吉川愛)は3人で1人、1人で3人だとして、芝居をここに集約しないとダメじゃない?だらだらと長く続く戦争…

下北沢OFF・OFFシアター 『漂う、傍観者ども』

若い作家の人って、結構強盗の芝居を書いてしまう。日本で奪われるのはきまって「金」、国で一番価値があるたいせつなものがお「金」だからだ。(これが宗教の力が強い国だと「主教」誘拐とかになる)深井邦彦1985年生まれ、彼が奪うのは素性の知れない「銀…

角川シネマ有楽町 『バビロン』+『Dread Beat and Blood/ダブ・ポエット リントン・クウェシ・ジョンスン』

…2回見ちゃったよ。1回目は予備知識なく見たから何が何だかわからなかった。トラックで運ぶあの大きな箱は何?レゲエのバトルって?結局この人たち、チームなの?ジャーって何? ようやっと私に伝わったのは、恐ろしいほどとげとげしい景色——砂利、泥濘、…

有楽町よみうりホール 『ロミオとジュリエット』

囲い込まれた私たちは戦いを見、憎悪を見、そして愛を見る。ただ見る。見るだけだ。それは「演劇」という幻かもしれないし、もしかしたら何かのゲームなのかもしれず、ひょっとすると客席と地続きの現実——ウクライナ戦争やコロナ――であるかもしれない。それ…

東急シアターオーブ ミュージカル『アナスタシア』

こんなところに、「ロマンチック」は生き延びていた。いろいろ文句が多い、恋愛ものを見ても「あー、はいはい」という、そんなひねた私も『アナスタシア』にちょっと黙ったのである。体の中の、「ロマンチック」の干乾びた函が、魔法の水で蘇る。 革命のロシ…