2014-01-01から1年間の記事一覧

劇団民藝 『バウンティフルへの旅』

深緑とサンドベージュの壁を持つ、二間のアパートメント。家具がぎっしり。上手の寝室の、ベッドがかたそうなことが目を引く他、下手に大きな上げ下げ窓(ハングウィンドウ)があり、その横で揺り椅子が、物思わしげに外を眺めている。揺り椅子をみているだ…

ダックスーププロデュース2014 『シンデレラの一部』

私はふつうの、市井の一般人である。人を笑わそうなんて企てたことはない。そして、例えば、プルーストには笑えるポイントはない。 しかし、私がプルーストを読むと,本 のここ(右ページの始まり)とここ(左ページの終り)の間が、なぜ埋まっているのかわか…

青山円形劇場プロデュース 『夕空はれて ―よくかきくうきゃく―』

円形の舞台に輪になって置かれた背もたれ付きの椅子とスツール。一つの椅子の上に白い花束がある。椅子取りゲームを予感する。目を上げると、舞台上方に小さな檻、手足を縮めた人ひとり入れるくらいのもので、わずかに扉があいている。その檻を囲んで、電燈…

シアターコクーン 『キレイ  神様と待ち合わせした女』

ピアノの調音の「ラ」の音が、大きな舞台の空気を割る。何か硬いもの、その向こうに『キレイ』の猥雑で、清冽な世界が広がっている。 舞台上の誰も彼もが大声で、「生きてていいですか」と訊いてくる、と感じる。 偽善者だけど生きてていいですか。 目を開け…

伊藤四朗生誕?!77周年記念 『吉良ですが、なにか?』

事前にかってに予想していたあらすじと、ぜんぜん、違っていた。内蔵助はどこ?梶川与惣兵衛(日記書いた人)とか、出ないの?え?吉良ですがなにか、と観てる自分に聞かれている気さえする。 幕が開くとそこは病院。「禁煙外来始めました」というポスターが…

シス・カンパニー公演 『鼬』

闇を浴びる。舞台奥に一か所、かすかな明かりが見えるだけで、あとは真っ暗。客席の前方には、まるで闇が「射して」いるように感じられる。目を凝らすと、中央に太い柱と、その横に長持らしき大きな箱がある。気のせいか(気のせいだけど)、暗がりの中、柱…

おちないリンゴ#12 『そのときのはなし』

四作のオムニバス。 アップルパイで兄さんときたらもうそれは尾崎翠でしょっと決めつける間もなく、テニスのラリーのように芝居は始まる。兄(森田陽祐)、妹(木村佐都美)、その恋人(粕谷大介)、兄は妹を演じ、恋人は兄を演じ、役割はくるくると変わって…

Bunkamura25周年記念 『皆既食 Total Eclipse』

暗がりに立つ、氷のような眼をした傲岸不遜の十六歳。誰でも十六歳の時には不遜なものだが、アルチュール・ランボー(岡田将生)は、それに加えて、天才だった。 十歳年上のヴェルレーヌ(生瀬勝久)は、その天才と美貌にひかれ、離れられない、苦しい恋愛関…

M&Oplays produce 『水の戯れ』

女の人の心の中には、たいてい二階建てくらいの、一軒の家があって、玄関と裏口と階段がついている。出入り口が一つきりの、マンションみたいに馬鹿な男たちは、女が二階でものを言っているのか、それとも裏口から姿を消してしまって見えないのか、見当もつ…

無名塾2014 『バリモア』

奈落の口が開いている。中から椅子の背や姿見が顔をのぞかせ、舞台上には何もない。照明を吊りこむタワーが袖奥にくっきりと見通せる。 普段劇場で、観客が眼にすることがないものをじっと見つめながら開演を待つ。タワーのそばで舞台の進行を見守る俳優、…

恵比寿ガーデンホール 『Live Magic』

長く延べられた二本のバーに、いくつものコーヒードリッパーがかけ渡されている。その上にうつむいて熱湯をゆっくりそそぐスタッフは黒いTシャツを着て、合間に手早く紙コップを客に差し出す。 Tシャツは皆おそろいで、Live Magic と書いてある。今日はLi…

東京芸術劇場×明洞芸術劇場 『半神』

お姉さんのつっまびく、しゃみせんにー。こまどり姉妹が流れて、ザ・ピーナッツが流れる。合間を、k pop がつないでいく。ここは東京池袋。舞台にはDNAを模したという、螺旋階段とその階段を抱きかかえるように伸びる二本の突端。トレーニングウェアの役者が…

青山円劇カウンシルアンコール 『生きてるものはいないのか』

主役っぽいから死なないとか無し。死は平等に、軽々と登場人物に訪れる。 終演後パンフレットを広げて「ミキ(川口春奈)病気の子」だの、「ショージ(中嶋歩)アイドル業の傍ら大学へ」だの、書き込んで頭の整理をした。でもみんな死んじゃうのだ。出てくる…

竹内まりや  『 TRAD 』

涙など見せない強気なあなたを そんなに悲しませた人は誰なの 教室を忙しく飛び交うカセットテープ。なつかしいね。定番の失恋プレゼントだった。 あれからずいぶん経った。久しぶりに竹内まりやを聴く。すこし緊張。だってわたしもう鎧とかヘッドギアとかで…

ペンギンプルペイルパイルズ 第十八回公演 『靴』

古い病院の廊下には、たいてい色とりどりのテープで矢印がしてあって、「レントゲン室」だの「検査室」だの「外科」だのという目的地にたどり着けるようになっている。 真知(金澤美穂)と理々子(愛名ミラ)の二人の高校生は、その矢印が平行に(あるいはぐ…

演劇集団円 女流劇作家書下ろしシリーズその2 『朽ちるまにまに』

20才若返ったらどうしよっかなー。 「..................。」 頭が白紙。えーと映画行ったり、お芝居観たり、洋服買ったりお茶したり。じゃあ今となんら変わらん。 この芝居の登場人物たちの場合は微妙。70歳のはずなのに、南米奥地か…

池袋芸術劇場 『小指の思い出』

目の前に、透ける砂漠が広がっている。膚色の薄布で覆われた車、薄布で覆われた自転車、薄布で覆われたハンマーのようなもの。舞台の両袖は完全にオープンにされ、殺風景だ。この舞台袖をみたとき、何だかこの舞台自体が意志あるもので、これはその「決意」…

二兎社公演 『鷗外の怪談』

しげ(水崎綾女)が、帯の間から何やら取り出して服用する。(これが清心丹かー。)と感動が胸に来た。観潮楼の二階。廻り縁、洋書の本棚、来客用円卓。焼けてしまって今はないその家が、目の前にある。そこも感動。鷗外(金田明夫)は軍医総監、妻しげは三…

シアタートラム 『アンサンディ 炎』

(遠くから近づいてくる炎を、身じろぎもせずじっと見ている。まばたきしない。火の粉が飛ぶ。煙がしみる。でも動けない。睫毛が焦げる。火が熱く、痛い。) ナワル(麻実れい)は内戦を逃れて、中東からカナダに移住してきた。彼女の死後、双子のこどもたち…

流山児☆事務所 創立30周年記念公演第一弾 『どんぶりの底』

さ最前列。人見知りの心の蓋がゆっくり閉じるのを感じるくらい舞台に近い。近すぎる。最前列で芝居を観たのは何十年も前、状況劇場だったなあと思いだす。同時に、流山児祥の芝居を観たのも、そのくらい昔だ。深浦加奈子がめっちゃきれいで、炎の中を車が走…

ナイロン100℃ 42nd SESSION 『社長吸血記』

会社。 「目先の利益だけ」「やってることがえげつなくて」いま、こうして字を書いている喫茶店の隣のテーブルで、OLが二人、会社の噂話をしている。タイムリー。好景気があり、不況があり、バブルが来て、パソコンが普及した。しかし会社は変わったか。確か…

葛河思潮社 第四回公演 『背信』

観ている間じゅう、「恋愛は、人生の花であります。」と、思う。 ジェリー(田中哲司)とエマ(松雪泰子)は、別れようとしている。ジェリーにはジュ―ディスという医師の妻、エマには出版社社長の夫ロバート(長塚圭史)がある。アパートを借りて続いた七年…

『思い出のマーニー』

泣く。この映画を見て、もちろん私は泣いたのだ。ラスト近く、『アルハンブラ宮殿の思い出』が聴こえるシーンで。 でもさ、泣いたからって、好きな映画なのか。 12歳の佐々木杏奈(声:高月彩良)は、喘息もちで、心に屈託がある。大きくなるにつれ、段々に…

俳優座創立70周年記念公演第4弾 『クレアモントホテルにて』

アール・ヌーボー調のランプ、モンドリアン風に区切られた舞台セット。中には、毛糸をかごから、ポケットから取り出して各々の人生のように編み進む人々。 クレアモントホテルは、セットの継ぎ目の仕上がり具合が、すこしでこぼこして「惜しい」感じに作られ…

劇団チョコレートケーキ 『親愛なる我が総統』

狭い。舞台は、ことさら狭く設えられている。圧迫感。二重の上に机、上手に迫る壁の、小さな明かりとりの窓には鉄格子がある。窓からぼんやり斜めに光がさし、机と椅子がかろうじて見分けられる。暗さに目が慣れると、机を囲んで三脚の椅子があることが分か…

映画 『イン・ザ・ヒーロー』

赤身の肉とブロッコリ、唐沢寿明は撮影中、体を作るためにそればかり食べていたのだそうだ。 街のショーウィンドーで、難しい色合わせの服、流行の先端の服を見ると、「カラサワくんの服だね」と呟く癖が、私にはあった。唐沢寿明は四肢が長く、腰が細く、顔…

シス・カンパニー公演 『火のようにさみしい姉がいて』

20年ぶりに故郷に帰る男(段田安則)。男は妻(宮沢りえ)を伴っている。バス停を尋ねるために入った床屋で、なぜか女主人(大竹しのぶ)が男の姉だと名乗り、ひずんだ世界が空間を覆う。 観ながら、何事もなく田舎に帰る二人を想像した。これは、いわば鏡を…

ピーター・バラカンのPing-Pong DJ Special ゲスト:濱口祐自

訛りがひどくて聞き取れない、そんなこと、今の日本でありえない。けど、濱口祐自を見ていると、さようしからばの侍言葉でないと、他国のものと意思疎通できなかったという幕末のことなど思い浮かべてしまうのであった。 ゆっくりうねる、紀州勝浦のイントネ…

ヨーロッパ企画 『ビルのゲーツ』

悪魔にたましい売ってゲーム終了。 それが私の一度きりのゲーム体験です。 アフタートークで(ゲスト:せきしろ、バッファロー吾郎A ヨーロッパ企画:上田誠、石田剛太、酒井善史)、『ビルのゲーツ』はゲームの感じなのだと繰り返し言われていて、果たして…

世田谷パブリックシアター 『ヒストリーボーイズ』

「世界の中ではすべてはあるがままにある」ウィトゲンシュタイン。 ウィトゲンシュタインに全然不案内。ウィキペディアと新書で、変わった人だったらしいその波乱の一生をさらっと追った。世紀末オーストリア出身の思想家、ケンブリッジ大学の哲学の教授。鬱…