2013-01-01から1年間の記事一覧
鏡。上手に、舞台にいる人だけが映ったものを見ることのできる大きな鏡が据えられている。客席からは、どう映っているのか想像するだけだ。 きっと、鏡を覗こうとする遥(青柳いずみ)を、死んだ義母美智子(安藤真理)がいつもさえぎっているのが見えるのだ…
世界を病院に見立て、 とか、 1984年初演のこの作品は海外でも上演され、 とか、書いてもいいわけだけどそんなことはさんざん言いつくされているような気がする。 あんまりきれいで驚いたのである。だけどお客さんが「おべんきょう」に来ていますって人…
期待する。遠足が来るのを、新車の納車を、いやな奴の失敗を、面白い芝居を期待する。今日は水曜日のマチネ、9500円のチケットを握って、開場を待つ。混んでいる。二人連れの主婦、娘と母親、一人で来た演劇好き、二列に分かれて劇場に入る。 舞台は六角…
――つかえる。 原作『グッドバイ』で、妻の身替りにする美女のことを、主人公はこんな風に言うのである。やな奴である。汚れてる。 この芝居の黄村先生(段田安則)も、出だしは似たり寄ったりだ。八人の愛人と別れ話をするために美しい秘書を雇う。秘書の名…
2001年に閉校した中学校の体育館、半分が客席、半分が舞台。舞台といっても高さはない。体育館の床。バスケットボールのゴールの線がくっきり見え、下手にあたる体育館の奥隅には植物が並び、上手奥には青いビニールシートがかかって、赤いコーンと立ち…
正方形の舞台、四角い木のフレームが、展開図のように広がっている。ひょいと木部を避けながら歩く役者(荻原綾)が、静まった中でひとこと、「いよいよ、」という。間。かなり間があって、「本格的に、」とセリフが続く。このセリフの間にうっとりする。し…
セットが暗がりに溶けている。下手側に小さなソファが一つ、その横にサイドテーブル、舞台中央にオットマンが一つ、その奥に白い戸棚、舞台の下手前に白く塗られた椅子、舞台奥にすべてを見守っているような椅子、ソファの後ろには聞き耳を立てているように…
オレンジ色のカーペットの上に、色とりどりの椅子が並ぶ。正面向いている椅子の色は黄色(と、きみどり)、その上に男物のスーツが乗せられている。椅子はあちこちに置かれているけど、向かい合ってシンメトリーになっているのは、カーペットの端と端の一対…
窓の外に、抜けるような青い空が広がっている。ここは港の見えるクラブ、上手には酒を出すバーカウンター、フロアに丸テーブルが三つしつらえられている。吹き抜けのドーム型の建物で、二階部分に内側に突き出た廊下が回っている。上手手前に控室と裏口に通…
人の流れに逆らい、壁に張り付いて出てゆく人をやり過ごしながら、劇場の扉にたどり着いた。今しも客が全員退出し、ドアをロックするところ。入って近くから舞台が見たかった。忙しそうな係員に、戸の隙間からやっと一言聞く。 「あれ、竹?」 舞台に木々が…
舞台の背後と手前に焦点を結ぶ不思議な屋台セットの前に、白と黒の二脚の椅子があって、舞台が一瞬暗くなると、明るくなったときにはもう、芝居がにぎやかに始まっている。芝居のカットインだ。この芝居の全ての速度が、ここに凝縮されていると思うくらいの…
客席の「外」、ロビーから、くぐもった音でピアノ曲が聴こえる。ちょっと、エヴァの気持ち。 上手にドアと、燭台を置く小テーブル、下手にもローソク、中央に布で覆われたテーブルと椅子、その後ろに吊り下げられた大きな窓。 窓の向こうから、エヴァ(満島…
おはよー直前でごめんねーきょうねー10時45分からいい映画やっているよー。といわれてふらふらと出てきた六本木。観に来たのは『激戦』、知っているのは名前だけ。主体性ないね。でも六本木だから一応いい方の靴はいてきたよ、とぶつぶつ言いながら映画…
LOVEを、SEXとDEATHが挟んでいる。それぞれ1996年、2000年に初演された『13000/2』と『スモーク』、今回新たに書き下ろされた『死んでみた』の三本を、オムニバス形式で上演する試みだ。どれもケラリーノ・サンドロヴィッチの作品である。出演…
10月19日(土曜日)マチネ。劇場二階に向かう途中、階段から、舞台の、二階建ての廃墟が見える。ぼろぼろの瓦を乗せている。落ちてるところもある。電信柱が三本。どこをみてもとても作りこまれていて、胸が躍る。上手と下手に、古くなったテレビやら、…
スティングが流れたら、ちょっと驚く。 ――スティングじゃないか!どうしたピーター・バラカン!嫌いなのに! ピーター・バラカンのラジオ番組では、ロック、ブルーズ(「ス」じゃない)、ファンキ(「ファンキー」じゃない)なソウル、あまり人が知らない民…
田舎者って、たとえば、おしゃれなカフェを全然知らない人?それともいろんなカフェを、知り尽くしてる人?あとの方じゃないの。田舎者のあこがれはいろんな形をとる。流行の中心を意識しすぎて、受容が度を越えたりする。宮澤賢治は田舎者だったと思う。エ…
精神分析で有名なフロイトは、強硬な無神論者でもあった。このフロイトと、熱心なクリスチャンで、聖書を基にしたファンタジー『ナルニア国物語』を書いたC・S・ルイスが、神の存在をめぐって架空の論戦を繰り広げる。今しもドイツとイギリスが開戦しようと…
強さ。生きるための強さって、いったいどのくらい必要なのだろう。めそめそしていると、「そんなことで世の中渡っていけると思うなよ」と誰かが言う、あれって、どの位が適正量なのか。 『ロスト・イン・ヨンカーズ』は、そんな強さ――タフネスに取りつかれた…
10月なのに暑い。半袖。風が強くて日が照ってる。すんごい早さで雲が流れていくなあ。としみじみ見入っちゃうくらい用事のない日。『そして父になる』を見に行った。 都心の高層マンションで、妻みどり(尾野真千子)と息子慶多(二宮慶多)と暮らすエリー…
川岸に立って、川の流れをいつまでも見ていると、不意に川が流れているかどうかわからなくなる。動いているのは岸の方のような気がする。木や草、地面と一緒に、結構な速さで流される。くらくらする。舞台の奥から竹林があらわれ、しずしずと手前に寄せてき…
上手バルコニー席から、舞台上にばらばらに打ちこかしてある椅子が8脚、見える。下手の袖に、舞台に背を向けた椅子が6脚ある。擦れて、すこしグレーがかった黒い床。羽目板の筋がきれいな模様をつくる。マーラーの『巨人』が流れている。巨人の重い足取り…
点数の出ないピンボールマシンみたいな芝居である。経路に仕込まれたスイッチの上を、確かに球がとおっていくのに、手ごたえはみんな消えてしまう。たぶん、点数はすべて水面下でつく。しかしそれは見えない。 新婚の、年の離れた夫婦、民夫(松井周)と若葉…
テレビ。30年位前。 「僕のお父さんのまねをします。」 おもむろに迫真の(たぶん)咳払いをする高橋幸宏、田舎の高校生はそのシュールさと説得力に感じ入ったのだった、というようなことを思い出しながら、舞台後方から登場する高橋幸宏とバンドのメンバ…
サッカーワールドカップフランスチームが、ナウシカにかしずいている。ジャンヌ・ダルクのイメージって、こんな感じだ。 フランスの小さな村で生まれた農夫の娘ジャンヌ(笹本玲奈)は、14歳のころから神の声を聞くようになる。その声は、イギリスに占領さ…
松尾スズキの芝居を観て考える。もしも股間に眼がついていたら、そういう人間の恋愛は、地獄のようなものに違いない。恋の絶頂と覚醒が、同時に来る。 キメ(広岡由里子)の息子タケヒコ(三宅弘城)の足の間にも、たぶん眼がついている。それも母の眼だ。か…
チェーホフ。えらい人。1898年のスタニスラフスキー演出『かもめ』以降、その劇作家としての声望は揺るがない。一見かかわりなく見えるセリフ(外面)と心理とが、交錯しあって精緻な芝居を作り上げる。これって予断?予断かも。 チェーホフは自分の戯曲…
客入れの音楽などはなし、劇場はざわめいているが、舞台を見ると幕前に大きな太鼓がこちら向きに置いてある。赤い照明が当たっていて、日輪のようにも見える。太鼓の中のアマテラス。 無音というのは、音の一種だ。静まった太鼓には、つよい音や明るい音、「…
煙草の煙みたいに立ちこめる愛。というわけで、パンホーチョン監督の『恋の紫煙』(2010、香港)を見た。公共の場での喫煙が制限された2007年の香港、屋外の喫煙所で知り合った、ジーミン(ショーン・ユー)とチョンギウ(ミリアム・ヨン)の微妙な…
彫刻家でデザイナーのイサム・ノグチ(窪塚洋介)が、飛行機に乗ってアメリカから日本に来ようとしている。イサムは月を見ている。その引力のことを話す。 来日したイサムを人々はスター山口淑子(美波)と結婚した男としてみる。彼は広島の原爆記念公園をデ…