シアターコクーン 『ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン』

 焼けて、きれいに炭化した能舞台。何もかもが矩形に区切られ、空には矩形でグレーの雲がかかる。

 っていう風に見えるけど、違うのかも。とにかく舞台の前方を囲んで、能のように白い石が敷き詰められている。

 この黒く焦げた舞台の上で、男と女、男と男の、一蓮托生の「道行」が繰り広げられる。はず。

 緩い作品のベストセラー作家永野(阿部サダヲ)は、むかしの先輩八木(吹越満)が海外の危険な国ジャワンガスタンで、人質にとられていることを知り、救出に赴く。永野の女優の妻ミツコ(寺島しのぶ)は、連絡の取れなくなった夫を追って、マネージャーオカザキ(岡田将生)とともに現地に飛ぶのであった。

 永野、ゆるい。「醜い」ことを避け、「失礼」なことを言わない男。必死の「道行」であるはずの売春夫ゴーゴーボーイとの逃亡は、自他を「偽る」永野のせいで「道行らしさ」を奪われているように見える。

 ミツコの脳内では「欲」と「夢」が未分化だ。後半になると、ミツコの欲と道連れの「旅」は、「夢」の中に反転して消えてゆきそうになる。いや、ミツコは旅などしなかったのかもしれない。

 片側から見れば「虚」、反対側から見れば「実」であるような、美しくて醜い貼りまぜの「天国」の物語、囲われ、覆われたその場所で、人々はいけにえのヤギのようにつかのま平和をむさぼる。そこはもう焼け落ちた地獄なのか。夢幻に混ぜられた「人質」のリアルが、観ていられないほど鋭く痛い。

 トーイの岡田将生(二役)、『風と木の詩』のような美しさ。永野との、なかったかもしれない「愛」は、もうちょっと感じられてもいい。悪い話を聞くところね。