赤坂ACTシアター いのうえ歌舞伎《亞》alternative『けむりの軍団』

 うっかりしてる間にこんな年になってしまって、ふと頭の中を「明日の月日はないものを」という詞がよぎる。(黒澤も使ってたねー)

 この新感線の『けむりの軍団』を見ていると、それをひしひしと感じるのだった。いまの「い」という言葉と「ま」という言葉を言う間にも飛び去る舞台の一瞬、この一瞬の中にしか「新感線」はない。「失われる=ポップ」ということの贅沢と楽しさと寂しさを思わずにはいられない。じーん。

 倉持裕の新感線、『乱鶯』よりもいい。つまり、一か所に「とどまっていない」。特に女の人にいい牌が行く。ばか殿目良則治(河野まさと)を子に持ち、苦悩する嵐蔵院(高田聖子)、則治への忠義の余り魔性になる千麻の方(中谷さとみ)、大殿のお手付きであったことを秘(かく)して働く長雨(ながめ=宮下今日子)。どの女も黒澤ぽく、深く描かれている。宮下今日子、大急ぎで口の中広く。こんな役なかなかないよ。急な配役だったようだが、楽しんでほしい。肩が縮こまっている。損。真中十兵衛(古田新太)の「あばよ」がすばらしい。でも言えてない台詞もある。それはもう、諦めるべき「とき」なの?

 思い返してみて『隠し砦の三悪人』(2008)くらい腹立った映画はなかったわけだが、あの砦の辺りから、今回の煙(成長)が、狼煙のようにあがっていたのだろう。あれ、子供の映画だったよね。新感線がこの路線(大人)をやることに私はめっちゃ肯定的だ。だって「明日の月日はないものを」。早乙女太一、腰を割って屈んだ姿勢が誰より低くかっこいいが、声割れてた。川原正嗣にキャラ似てたよ。美山輝親(池田成志)、最高の牌、最高の手であがれるのに、なんか洩れてる。そして、h音、変。序盤、間の手を入れる初山国助(吉田メタル)的確、よかった。