ペンギンプルペイルパイルズ 第十八回公演 『靴』

 古い病院の廊下には、たいてい色とりどりのテープで矢印がしてあって、「レントゲン室」だの「検査室」だの「外科」だのという目的地にたどり着けるようになっている。

 真知(金澤美穂)と理々子(愛名ミラ)の二人の高校生は、その矢印が平行に(あるいはぐにゃぐにゃに)集まるところにいる。行先はレントゲン室じゃない。異なる時間の異なる場所だ。10年後の真知の家、40年前の殺人現場、小学生時代の学校、みな近々と並んでいて、ジャンプする必要もない。ただひとあし、右と左が3センチ違う靴で踏み出せば、そこは色の違うテープの上、すこしひずんだ別の世界だ。そしてそこでは誰もが靴について考える。40年前の刑事たちは被害者の靴について考え、教師たちはなくなった30足の上履きについて考え、真知の家族は真知の恋人只木(吉川純広)の汚すぎる靴について考えている。

 空間が軽々と、ステップを踏むように入れ替わる。只木は殺人事件を調べる大学生佐本(大和田健介)の夢の中で目覚め、平成の現代にいる佐本は、昭和の刑事たちにインタビューする。小さいりり子(ぼくもとさきこ)は大きくなった真知に諭される。極小から極大に。小さな嘘から殺人まで。登場人物も気づかないくらいすばやく。

真知と理々子は一人のひずんだ少女なのかもしれないが、そんなことを考えるまでもなく面白い。例えば刑事たちは、高品格とか大木実とか、本当の昭和の刑事ものに出てきた佇まいだし(抑揚の平板な所がまさに昭和)、靴を半分こする二人の少女はさわやかでいやみゼロだ。空から舞い降りてくる雪道はきれいで、不均衡な靴箱はセンスを感じさせる。楽しく、きみょうな冒険をしたと思った。