渋谷TOHO 『マンハント』

 控えめに言って、ジョン・ウーの『ミッション・インポッシブル2』はとても好きな映画だった。かっこいいとか美しいとか鳩が飛ぶとか、人はいろいろ言うだろうが、わたしにとってあれは「話の早い映画」だ。スピンする車のスローモーションのなかで、男と女の目があう。そのあと何の説明もなく二人は恋に落ちるけど、1ミリも不自然でない。映像の説得力が、すごいんだもん。

 ジョン・ウーの新しい映画『マンハント』では、まず鳥居の立った波のたぎる海が映る。日本だ。ちょっと奇妙。演歌が流れ、一人の男(ドゥ・チゥ=チャン・ハンユー)が小料理屋へやってきた。ガラの悪い客たちに絡まれる店の女(レイン=ハ・ジウォン)、彼は女を助けようとする。「私は弁護士だ」。

 うーん?弁護士だからって関係ないよ。レインに、後々迷いを生じさせる大事な所だから、セリフに心を分散させず、映像に集中したかった。ここのシーンで乗れずそれが最後まで効いてしまう。

 殺人の疑いをかけられたドゥ・チゥは、逃走しながら真相を追う。一方、彼を捕えようとするのは大阪府警刑事部捜査一係の矢島聡(福山雅治)である。追いつ追われつ、二人は心を通わせていく。

 地下で、路上で、車の中で、水上で、激しいアクションが展開する。中でも、左手を手錠につながれた矢島が、放り投げられた日本刀の鞘を右手でつかむが早いか左顎の下に挟み、腕を伸ばしてすらりと抜き放つところはエレガントで、かっこよかった。

 真由美のチー・ウェイは中野良子の表情をよく研究していたし、殺し屋のドーン(アンジェルス・ウー)は好感が持てる。倉田保昭の顔こそ、「やりたくないこと、やらなきゃならないこと」を全部やってきた顔だなと思った。悪者といい者の白いシャツが血で赤く染まり、複雑な日本への感情を表わしている。