劇団民藝 『グレイクリスマス』

 おっ、びりっとしてるね民藝。という今日の『グレイクリスマス』であった。斉藤憐の戯曲が面白く、一人一人の俳優が、登場人物と真剣に渡り合うのが感じられる。

 ぱっと見、ここがどこなのかわからない、という装置。上手(かみて)に材を選んだ大きな階段、朝香宮邸だの加賀様だのを思い出す壁紙やソファセット、庭を見渡すガラスのフランス窓(しかしそれは『曇って』みえる)、中央奥に日本国旗を思わせる古風なステンドグラスの明かりとりがある。供待ち部屋?差し掛け部屋?玄関に近すぎるこの部屋――家――は、実は伯爵五條家の離れだ。日本の縮図、この小さな家の中で日本の戦後が生まれたり、消えたりする。

 アメリカ人の兵士が、アメリカ人らしく登場しなければいけない物語だが、神敏将は、髪型から何から、背面とびでぎりぎり難関を越えてくる。観ていてほっとした。日系将校イトウ(塩田泰久)も、「アメリカ」とかを英語発音するが、もう、最初のくだりの発音なんか、「めりけ」でじゅうぶんだよー。

 気合の入った作劇だが、皆トーンが、一緒。空間にセリフを張りつける調子が単調で飽きる。そのせいで軽さが出ずもひとつ笑えん。境賢一のトーンも軽いほうがいい。

 あと岡本健一、のんべの兵士とか老眼の亡霊とか、通な役が続いているけど、おもいだして!あなたはかっこいいんだよ!ひしゃげた声じゃなく、いい声も出さないと、雅子(神保有輝美)とのシーンがもたない。雅子ここでは声大きすぎ。二人きりでやり取りしてください。客に「見せよう」とする必要はない。イトウと五條伯爵の妻華子(中地美佐子)も、「見せよう」とするから面白くない。萌えないよ。ここデリケートになったら泣くと思う。五條伯爵(千葉茂則)二幕で突然よくなった。みやざこ夏穂声に説得力がある。