渋谷TOHO 『ボヘミアン・ラプソディ』

 「フレディがスポーツ用品店に買い物に来たんだって」

 「ふーん」

 すっかり大人のつもりの二十歳。中二時分のクイーン熱のことは忘れてしまい、フレディ・マーキュリーも日常と地続きの、等身大の存在になっていた。1年や2年で、熱が上がったり冷めきっちゃったり、ああもう、人気っていうのはねー。

 その人気というあてにならない綱の上で、けん命にバランスを取りながら、楽曲という自己証明をかざしつつ進むクイーンとフレディ・マーキュリーは、イメージを変えながらヒットを飛ばし続ける。ランニングで短髪のフレディを観た時は(別人だ)と思ったし、醒めた大学生は(しぶといバンドだなあ)と感心したりもしたものだったけど。

 今日、銀座線の吊広告が、車両全部『ボヘミアン・ラプソディ』の「大ヒット御礼」のそれになっているのを見て、私が昨日見た映画は、なんでまたそんなに当たったんだろと少し不思議になった。ヒースロー空港の荷物運びから世界的なバンドへ、ザンジバルからイギリスへやってきた複雑な生い立ち、ゲイであることの葛藤、AIDSの死。

 いろいろあるけど、やっぱ、フレディ(ラミ・マレック)という人のキャラが立っていて、そのキャラを、映画が過不足なく表現し、ライブの歌がわくわくする、この二つが大きいと思う。そして誰であろうが映画に登場する全ての人が一人残らずきちんと、過不足なく語られる。中でも、婚約までした恋人メアリー・オースティン(ルーシー・ボイントン)に深刻な話をするところなど、悲しいけれどちょっと笑えていい。クイーンが演奏するどの曲も知っていて、いい曲に思うという自分に衝撃を受けた。クイーンてインプリンティングだったんだ。