東急シアターオーブ リンカーン・センター シアタープロダクション 『王様と私』

子どもの頃映画観た時は、どう見ても先生と王様が結ばれるのが王道だと思った、王様は物語の都合で死んでしまったような気がしていた。その影として悲恋が一つ入ってるよね。

 1951年ブロードウェイ。まだ公民権運動も何も起きてない。アンナ(ケリー・オハラ)がヨーロッパ風の夜会を提案するところとか、危ういというか、(鹿鳴館か…)とくらい気持ちになってしまう。

 でもこの芝居、「はいはい、上演するのむずかしいですね」と箱に入れて蔵っちゃうのも惜しい。だって音楽に邪気がないんだもん。「I Whistle A Happy Tune」とか、びびったときには歌いたいし、「The March Of The Siamese Children」の子供たちが次々に現れるところもいい。そして「Shall We Dance?」の歌唱がすばらしかった。ケリー・オハラの涼しい澄んだ声から、アンナ先生の曇りのない人柄が見え、まっすぐに飛ぶ矢の周りの空気が、清浄に祓われているのに似ている。破魔矢みたいだ。シャムの宮廷の人々の歌う西洋人て変、て歌は、「ほんとそれ」って日本の人みんな言うよ。

 2015年の渡辺謙のレコーディングを聴くと、すこし上ずっているように思え、「SAYURI」の時も少し上ずってたなー、迎合的に聴こえたなあと思いだす。今回、渡辺謙は「上がってる声のトーンを徐々に下げる」という役作りをしているようだった。しっかりね。王様は決して子供ではない。この演目がこの先いきのびられるかどうかは、東洋人のワタナベケン次第。

 あとカンボジアがフランスの保護国になるところ、悩む王が去るときちゃらい後奏が流れるけど、あれまずくない?「私は強い!」と西洋と東洋に引き裂かれた王が叫ぶまで、彼をあまり「珍しい景色」扱いせず、しっかりバックアップしないと作品の命が短くなると思う。