アップリンク クラウド 『白い暴動』

 「移民を全員拘束して国外へ出す。18世紀末の流刑のように」こんなこと眉一つ動かさずいってのける政治家(イーノック・パウエル)に支持を表明するってどんなんだ。まあ、「自分の知っている場所」が変わってしまうというのは怖いものだ。恐怖。深い所から出た恐怖が偏狭な思想と共鳴する。でも、こういう共鳴ってただ自分をいやしく、陋劣にするだけなんだよね。

 1970年代の終わり、移民の多さに異を唱え、究極的にはナチにつながるスローガンで急速に支持を伸ばしていたナショナル・フロント(NF)という集団がイギリスにあった。(いまもある。)デヴィッド・ボウイ、ロッド・スチュアート、エリック・クラプトンらがイーノック・パウエルへの支持を表明し、それに危機感を持った人々が、「ロック・アゲインスト・レイシズム」(RAR)という運動体を立ち上げる。機関誌を発行し、折からのパンクの流行に乗って、黒人やアジア人、パンクのミュージシャンとともに白人至上主義と対抗し、やがては何とか押し流してゆく。

 パンクがレイシズムと戦ったことをやっと知ったような私は、話についてゆくのが大変。その上全部がさらさらしている。イーノック・パウエルの事知りたい気もするし、おばあさんがサフラジェットでお母さんが公民権運動家のRARの女の人のこともしりたいし、ジョー・ストラマーもっと見たかったし。どうしてロッド・スチュアートやクラプトンに話を聴かないのか。いやそんなことはいいんだ。このドキュメンタリーの中で一番いい所は、何の力もなく、ただ平凡に日を過ごす「私」のなかに、思わぬ力、現状を変える力が潜んでいるという発見だ。声を出すということ、そこに何かを変えうる、変革するマジックがある。残念だけど映画の終りに続けて、自然に「私はね」と声を出せるような仕上がりにはなっていない。