アップリンク クラウド 『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』

 セルゲイ・ポルーニンの跳躍と回転を見て!

 乱暴なくらいの勢いをつけて、空中に放り出された片足の中心で、残りの体が美しくデリケートに旋回してゆく。

 このドキュメンタリーはホームビデオからテレビまで、いろんな映像を使ってダンサー=ポルーニンの足跡をたどる。

 私が一番すごいなと思ったのは、ロイヤルバレエをやめたあと、どこからも声がかからず、ロシアのテレビ番組でバレエを披露するところだったよ。華麗な踊り、派手な跳躍、多彩な技、すべてが必死で、なにかこう、「もうあとがない」という、つきつめた集中が感じられる。それが勝ち抜き番組の俗っぽさを越えてるのだ。

 この人さ、つねに「もうあとがない」と思って踊ってるのかもしれない。家は貧しく、才能のあるセルゲイに、家族たちは必死になって全てを賭ける。父はポルトガルに、祖母はギリシャに、彼の学費をねん出するために出稼ぎに行く。すこし翳のある目をした母はポルーニンに厳しい。彼はロイヤルバレエ学校で人の二倍のレッスンを取る。しかし、彼の「あとがない」努力は、両親の離婚で崩壊してしまう。人間てさ、「自分のため」にはがんばれなくても、「何かのため」、ポルーニンの場合なら、ちりぢりになった家族のためなら頑張れるってことがある。動機が消え、ポルーニンは問題児と呼ばれ、クスリをやっていると公言する。

 フリーになったセルゲイは、ホージアのTake Me To Churchを踊ることを決めた。これきっと、自分の追詰められた囚われの感じ、「あとがない」ありさまそのものを踊っているんだと思う。まるで鋼のリボンの上で踊ってるみたいだもん。作品はもっとお母さんに突っ込んだこと訊かなきゃだめだ。鋼のリボンの裏側で踊る、もう一人のポルーニンとして。