渋谷HUMAXシネマ 『十二単衣を着た悪魔』

 えっパンフレット売り切れ。客の入りがいいのかも。

 就職試験に連敗中である雷(らい=伊藤健太郎)は、弟(細田佳央太)の京大医学部合格でへこむ。彼女にも振られた。現場の搬入アルバイトとして参加した源氏物語展(製薬会社がついている)でもらった源氏物語の解説と薬を持ってさまよう道で、雷は源氏物語の世界に紛れ込んでしまう。彼がいるのは弘徽殿の女御(三吉彩花)のもとだった。弘徽殿女御と言えば光源氏の敵。しかし雷は、「出来の悪い長男の母」とされている女御に感情移入し、持っていた頭痛薬の効き目もあって、彼女とその子一宮(田中偉登)に陰陽師として仕えることにする。持っていた解説のおかげで、彼のお告げは次々当たる。

 伊藤健太郎は「そこいらにいる男の子」を消化して、きちんと演じる。三吉彩花は演技指導のたまものか台詞回し(「~なことよ」などの「よ」)もトーンも正確だ。

 一番いい場面は雷が倫子(伊藤沙莉)と出会ってからの二人のシーンに集中している。お世辞にも綺麗と言いづらいはずの倫子が机の前から上半身をひねってこちらを見ている姿は、衝撃的にかわいい。もう一つのいい場面は自転車でぴゅーっとやってきて、説明台詞をそれと気づかせずいいまくって去ってゆく近所の人(LiLiCo)のとこ。ものすごくまずいのは家族のシーンで、形骸化した家族像をただなぞっているだけでとても退屈。後宮の女たちも印象に残らない。エンディングは、「そうなるよね」的な終わりで、ドローンが上がる間、変わらぬ距離で見つめあうのはおかしいよ。何よりも、弘徽殿の女御の存在が際立ってこない。白髪まじりになってからしか印象に残らない。よく使われる手法で話を纏めるなら、オリジナリティを出さないと。それは脚本の問題であり、演出の問題である。