東京芸術劇場 プレイハウス Sky presents 『てにあまる』

 単線の手漕ぎトロッコに乗っていたら、いつの間にかぴったりと球の中に閉じ込められていました。と思って観終わった。すごく面白かった。この芝居を面白くしているのは、まず登場する俳優たちの誠実さである。IT企業の社長鳥井勇気(藤原竜也)、離婚したい妻緑(佐久間由衣)、鳥居の忠実な部下三島(高杉真宙)、そして謎の男佐々木(柄本明)。離婚、傾く会社の経営、トラウマ、勇気のフラストレーションと怒りのテンションは、立っている場所から天井を突き抜けて、なにか「気」が出ているように高い。藤原は決して手を抜かずそのテンションをたもつが、その激しさに佐久間も高杉も、弾き飛ばされそうになりながら全然諦めないでついてゆく。ここがいいよ。特に佐久間は藤原の芝居を浴びながら対等に怒りを表現しようとする。初舞台の声は小さすぎ、怒りのスケールもミニだ。しかし数珠玉のように真面目に感情をつなげ、自分の足で立っているところ、私はこの人の将来を買うね。ただし、いっぱい芝居に出たらだけどさ。高杉真宙はそれよりも難しい役である。鳥居を父と思い従順なのだ。複雑な単線、いつの間にか何度も運転者が変わるトロッコ(物語)だけど、高杉の芝居は没入していて献身的だ。けど、鳥居の怒りに巻き込まれ過ぎじゃない?藤原の芝居はテンションで驚かされるけど、ちょっと単調。血管キレそうと思いながら観客が眺める時間が長すぎる。ヴァリエーションが必要だ。最初に勇気に向かって佐々木が過去のことを説明するとき、柄本明の目が寄っているような気がする。佐々木が勇気と同じ道にいるというと観客の私はそれを「疑いなく」「信じて」受け入れ、佐々木はメフィストなのだという自分の説明に納得しそうになる。この芝居は油断がならない、だって最後は、これが誰の動かしているトロッコなのか、急にわからなくなるのだから。