東京建物ブリリアホール モボ・モガ プロデュース ミュージカル・コメディ『恋のすべて』

 スウィングしなよ!ミュージカル俳優でない役者がキャスティングされ、それなりに上手くはあるけど決して安定した歌唱ではない歌を歌うのに、何故ミュージカル俳優のようにやらなくちゃと思うのか。へん。この音楽劇で求められているのは、コニーアイランド遊園地の原始的コーヒーカップのハンドルをぐるぐる回して振り落されそうな、スピードの出た木製のジェットコースターがレールから外れそうな、勢い、「スウィング」でしょ。歌なんか上手くなくていい、勢いだ。

 作中、優れている歌は「スウィングしなけりゃやってらんねえ」ってとこで、歌う富豪のカミラ(北村岳子)も素晴らしい。「金」を渇望し、「金」にとりつかれ、「金」に幻滅するアメリカの悲哀(『グレート・ギャツビー』)、そんなもん、「スウィングしなけりゃやってらんねえ」じゃん。レールからどうしても外れられず苦しむコニー(花乃まりあ)とカミラの息子テディ(松田凌)を、何とかして引き離そうとコニーの父で大会社の社長のクラーク(羽場裕一)は一計を案じ、探偵のニック(稲垣吾郎)に娘と恋をするよう依頼する。これさ、ここんとこに無理があるからひやひやするよね、結婚させたらいいよと思っちゃいがち。「金」の中で苦しんだり笑ったり力尽きたり再起したりする人々を、「語り手のニック」のようにこのニックも見守る。稲垣吾郎、『グレート・ギャツビー』読んだのか。稲垣の歌も芝居も、「稲垣吾郎」として完成していて、味はあるし罠にはめたことを後悔するところがほんとお人柄で清らか。でもスウィングがない。花乃まりあ、危なげない歌唱と芝居だけど、うわーと叫ぶところは野生でいいよ。逸脱。企みがないと。松田凌、舞台中央から下手まで、ずっとポケットに手を突っ込んでるの不自然。て、今頃言われてちゃダメ。石田ニコル、まず声まっすぐ出す。