Bunkamuraル・シネマ 『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』

 「この少年の(略)図太さに、私は感心してしまった。」(『サリンジャーと過ごした日々』105頁)。んー。私だって感心してしまったよー。よく出来た、才気ある原作(この小説も、サリンジャー出すとこがちょっと図太い)を、クリノリンスカートからクジラひげ(スカートを釣鐘の様にふくらませる骨組み)を2、3本ひゅっと外したみたいに、大事な要素をいくつか抜かして、少女の成長物語としてぎりぎり成立させているのだ。

 ウォルドルフやプラザホテルで父親に連れられ、デザートを食べていた幼少期を持つジョアンナ(マーガレット・クアリー)は、意識下に(あんなふうになりたい)という望みを刷り込まれている。小説を書く、五か国語を話す、旅をする。アシスタントとして由緒ある古めかしい小説エージェント会社で働くようになったジョアンナは、サリンジャーのファンレターに目を通す仕事を割り当てられる。最初に現れた彼女は、かわいく、可憐で、風にあおられる葉っぱみたいだ。瞳は落ち着きなく動き回るが、その顔は何の感情も表さない。恐らく、この登場時のジョアンナは、「お人形」「幼女」なのだろう。大学時代の恋人カール(ハムザ・ハック)ときちんと別れ話もせず、作家志望のダン(ダグラス・ブース)と付き合うような娘が、サリンジャーのファンレターにこっそり返事を書き、サリンジャーの出版にかかわったり、大人の愛を見聞きしたり、延々とテープおこしする生活の中で、すこし変わる。ここ、不分明。演技に変化が欲しいです。この話は『プラダを着た悪魔』(2006)にそっくりなのだが、ちょっと弱い。何より脇にぴりっとした(説得力ある)エミリー・ブラントがいないじゃん。ダンスのシーンも不分明。いかしたハーバード大学のレーンたちに対する屈折した感情が出てない。やっぱ男の人が撮った少女成長物語だね。