角川シネマ有楽町 Peter Barakan's Music Film Festival  『真夏の夜のジャズ』

 「ジャズ好きじゃないもの、冷やかしよ」

 ジェリー・マリガンバリトンサックス奏者)が好きだという青年の声に続いて、甲高い娘の声がする。私もね、ジャズ好きかどうかわからないよ。今日の『真夏の夜のジャズ』鑑賞も、彼女と同じ、冷やかしかもしれん。

 まず、ニューポート・ジャズフェスティバルというのは、1954年からアメリカのロードアイランド州で開かれているジャズフェスティバルであるらしい。この映画は1958年のフェスティバルの模様を記録したものだ。フィルムが傷んでいたため、修復が加えられ、彩色と同時に夏の幸福感がまるごと映画の上に「全部載せ」されている。映画の始まりに映る海のさざなみと、そこに現れる逆立ちした帆船の波紋が、すごくジャズっぽい。現実に「在る」もの、感情に立脚しながら、すこし幾何学的、抽象的な感じする。フェスティバルの設営(何百となく並べられる木製の折りたたみ椅子)、旧式の車でやって来るフェスティバルの観客たち、宣伝の為かオープンカーでジャズを演奏しながら町を流してゆく人たち。青と白の幔幕。セロニアス・モンクが淡々とピアノの前に体になじんだチェックのスーツで座り、「四分音」の音楽を展開する。四分音。しってた?半音より狭い音程だって。ははあ。1958年のニューポートには、チャック・ベリーアニタ・オデイルイ・アームストロングが登場して、どっちかというと、スウィートな音楽をやる。その対極にモンクはいるのかな。蛍の好きな甘い水、しかしもちろん、ジャズの中には苦い水もあれば、それが好きな人もたくさんいるのだ。甘い水は一色だけど、苦い水はさまざま、「味」を細かく感知できるよね。モンクについては、次の映画『モンク/モンク・イン・ヨーロッパ』を見るつもり。ジャズわからんけど。