Bunkamuraル・シネマ 『RRR』

 うぉー。頭の中の「プラッシーの戦い」とか「ムガール帝国」とか「セポイの反乱」とかのお勉強が、一撃であっさり四方へぶっ飛んでいく。走る!飛ぶ!苦痛!友情!最初、映画館で予告編を観た時、(どうなのかなあこれ)と思ったのだった。予告の中の英国兵が、あんまり無造作に、明るい感じで「死」を与えられていて、ショックを受けた。これじゃあ善悪二元論のシンプルな愛国映画やん。ちょっとインドの学習しちゃったよ。けど違ったね。これ、人間の自己肯定を扱ってる。自己肯定を阻害する者たちと、闘う話なのだ。たとえばイギリス人たちが、パーティでインド人のアクタル(ビーム=NTR Jr.)とラーマ(ラーム・チャラン)を蔑むとき、二人はダンスをしてみせる。片足を前と後ろに蹴り出し、なかなか地面につけない、切れ味の鋭い、生命力にあふれた踊りだ。蔑む人々をはるかに凌駕し、自分自身であることを朗らかに寿いでいる。あのー、『インドへの道』でフォースターが上品に言っていたのは、インドの人の、抗えない、この魅力の事だったのかもね。

 歴史に題材を採り、超人的な抵抗を扱っているが、決して偏狭ではない。ラーマたちを包囲する兵隊は、英国兵であり、ベトコンに手古摺るアメリカ兵であり、サイドカーを操るドイツ第三帝国であり、日本の軍隊である。でもあんまりそれがはっきりしすぎ。警官のラーマの過去は点描で終わらせるのかと思ったら、インターミッションの後に白熱した描写が続き、A級B級のくくりを越えた!と思った。全篇体に力が入りっぱなしだったけど、ビームがアクタルに変わるシーンが分かりにくく雑。あと、悪役の総督(レイ・スティーヴンソン)と総督夫人(アリソン・ドゥーディ)が、最初は薄くてぼやけてんのに、最後芝居が格あがりしてたね。自己肯定を扱いつつインドじゃ誰も文句のない愛国に着地って、なにか残念だ。