東京芸術劇場シアターイースト 『カスパー』

 「統一と正義と自由」「我らは皆で兄弟のごとく」、というようなフレーズを持つドイツの歌——ドイツ国歌が、傷だらけのSP盤から流れてくる。動けない病気の子のような、清らかな視線を持つカスパー(寛一郎)は、カスパーたち、あるいは黒衣たち(王下貴司、高桑晶子、小田直哉、坂詰健太、荒井啓汰)によって、足、手、頭の向きを決められる。視界を黒衣に与えられた彼は、泳ぐように歩き、そしてもう少しで、まるで飛びそうに体を傾げる。(彼は飛べない、地上に落とされる)「傾げる」。机やソファやいすの平面がみな少しかしぎ、延長線のとおーくで、地上にぶつかるようにできている。それは言葉による社会化が、重力みたいにカスパーや私たちを地面に縛り付けているということなのかなー。カスパーはプロンプター(首藤康之、下総源太朗、萩原亮介)の絶え間ない指示を受け続け、それはいつの間にか空爆や銃撃音となり、カスパーを馴致する。(カスパーはジャケットを裏返す、赤い光る生地だ)カスパーの中から恐怖と痛みを言葉に変える術が生まれ、マイクロフォンを口元に近づける熱狂者が顕れる。ドイツの歴史が「言葉を教える」ことの中から浮かび上がってくる。山羊と猿って、それはおとなしく屠られる家畜(死)と、言葉を持たない衝動のことかなあ。こうして文を弄する私は、お決まりのフレーズをお手玉しているのに過ぎず、ハントケの野蛮さが素晴らしいとは思う。でもさ、なんか、野蛮過ぎん?難解やん。テキストレジも豪胆すぎて山場がわからん。そこらへんは腹が据わってるのに、芝居は少しこわごわだ。寛一郎は瑞々しいけど、度を越した熱狂がない。行儀いい。この芝居どう理解?どう表現したい?最後弱いよ。プロンプターが三人で歌うとこがいい、ちょっとばかばかしくて面白かった。下総源太朗、台詞しっかりね。