PARCO劇場 PARCO劇場50th Anniversary シリーズ PARCO PRODUCE 2023  ミュージカル『おとこたち』

 ジャンル負けしてる。ミュージカルの海は広く、深いねえ。熱い紅茶に角砂糖を入れると、あっという間にほろほろ崩れるように、2014年に観たストレートプレイ『おとこたち』のいいところが、さぁっと溶けてしまう。うーん、前半、鈴木(吉原光夫)の世界への過剰適応の苦しみが足らない。二幕後半から、すべてに鋭くピントが合い、鈴木の息子太郎(藤井隆)と、それに向かい合う鈴木の友人山田(ユースケ・サンタマリア)と森田(橋本さとし)の無力さと老いがあらわになる。鈴木に反対方向から光が当たる。しいたげられていたおとこはしいたげてる。しいたげていたはずのおとこはしいたげてない。すべてを上下関係で判断するおとこ鈴木、成績優秀で山田の好きだった同級生(大原櫻子)を射止めて結婚するおとこ鈴木、息子のつたないマジックに耐えられない鈴木。吉原光夫の歌は素晴らしく、「聴かせる」。大原櫻子の歌声はまっすぐに北極星を指しているようだ。橋本さとしだって、藤井隆だって、ほとんど歌わないユースケ・サンタマリアだって、歌の拍動を外さず、歌は生きて脈打つ。けど…けど、それがどうしたというのでしょう。「おとこたち」の奇妙な味、目つきがおかしくなって仕事をやめ、ケッコンしない山田や、遠回しに何気なく殺人を持ち掛ける森田のオンナ(大原櫻子二役)、バレーボールに燃える森田の妻(川上友里)、すべてがストレートで毅然としたミュージカルのなかで薄まってしまう。もともとあった、角砂糖に混ざってた変形した金平糖が溶けきれない、みたいな舌の上でざらつく感じがない。きれいに歌える、素晴らしく歌える、それはいいことなんだろうか。わからん。カエルのようなしゃがれたナンバーが、胴間声のでたらめで難解な歌が、あってもよかったのにと思うのだった。