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イキウメ 『関数ドミノ』

 卒業した時に、数学全部、学校に返却した。一つの値に対して、ただ一つの値が対応するとき。それが「変数」を入れても成り立つとき。そういうもののことを関数とよぶらしい。あってる?

 原因不明の交通事故の目撃者たちが、保険会社の調査員横道(岩本幸子)によって集められる。見通しの悪いカーブで、横断歩道を渡っていた左門陽一(大窪人衛)に向かって、車が突進した。ブレーキも間に合わず、車は大破、助手席の女性は重傷を負う。しかし、陽一は無傷であった。目撃者の真壁薫(安井順平)が、それは人間を幸運にする「ドミノ」と呼ばれる現象で、ドミノをひきおこしているのは陽一の兄、森魚(もりお=浜田信也)であると断言する。目撃者たちは、次第に真壁の言葉を信じるようになってゆく。

 真壁の安井順平が、世をすねている男を好演する。世をすねている、というより、すねざるを得ないくらいまで落ち込んでいる人間をはっきり実感させる。目撃者の一人土呂(森下創)の報せを受けて、興奮を抑えられない神経質な手つきで、ナプキンを折りたたむしぐさ。時折、信用できないぞというようにしかめられる顔。横道に腹を立てる時の容赦ない冷たい目つき。こんな人、どうやって思いついたのか。わくわくするほどネガティブである。真壁が「陰」の極だとよくわかる。一方、「陽」の極である森魚は、ことがうまく運ぶとき、奇妙な具合に手や腕を動かしている。すこし動かしすぎるくらいだ。それによって、関数の式に「変数」をいれるというシンプルな話が複雑さを持つ。森魚が正体不明に見えるからだ。森魚と泉(吉田蒼)の食事のシーンはおもしろいが、食材が時間の経過で変化していて現実に引き戻されがち。人物設定、造形がきちんとしている。看護師澤村美樹(伊勢佳世)の信じやすさに、説得力がある。