新宿武蔵野館 『ペナルティループ』

あー、愛だよねこれ。殺し殺される者の間の激しい愛だ。恋人唯(山下リオ)を素性の知れない男溝口(伊勢谷友介)に殺された岩森(若葉竜也)は、6月6日の朝、復讐するために野菜工場へ向かい、機会をとらえて溝口を殺害する。しかし自宅で目を覚ますと、そこはいつも6月6日の朝、これから殺人を果たす朝なのだ。いやになるほど繰り返される殺人のループで、岩森と溝口は次第に学習し、心の距離が縮まってしまう。憎い人殺しの溝口は淡々としたなかなかいいやつで、「いいもの」「主人公」のはずの岩森は、悪鬼のような形相で溝口に迫る、シリアルキラーのようである。善悪の彼岸で、「つきあっちゃえよ!」と思っちゃうくらい二人は相寄る。命を取る=取られる者たちは等価で、誰に対してよりも強く向き合い、格闘する。これが愛でなくて何だろう。ボーリングの球が若葉を操るシーンが素晴らしく、ここで繰り広げられているのは、殺人ではなく、見えない力によって行われる「圧殺」でもあるのだといわんばかりだ。

 カメラワークがちゃんと、よく考えられていて、岩森と溝口の奇妙な協同も練られてる。これといって難はない。面白い。だーけーどー。頭の中で「おべんきょう」して作り出した殺人の10回のループとか、本当に耐えがたい。一晩中泣くのだって大変なのに、10回殺すとかありえないよ。この映画作った人、一晩泣いたこととかある?実感薄いけど。「10回の殺人」、聴いただけでげんなりする。宣伝もよくないよ。そこ強調しすぎだろ。

 若葉は表情が柔らかく、子供のようにも壮年になりかけの男のようにも見える。ラスト以外はよくやっている。伊勢谷はキャラクターをしっかりつかんで感じよく演じる。頭いい。だけどこんくらいの芝居じゃ第一線には戻れません。芝居に賭けろ。気を散らさない。

 ラストシーン弱い。あらゆる人を圧殺する世界に、岩森は出てゆくのじゃないか。