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Bunkamura25周年記念 『皆既食 Total Eclipse』

 暗がりに立つ、氷のような眼をした傲岸不遜の十六歳。誰でも十六歳の時には不遜なものだが、アルチュール・ランボー岡田将生)は、それに加えて、天才だった。

 十歳年上のヴェルレーヌ生瀬勝久)は、その天才と美貌にひかれ、離れられない、苦しい恋愛関係に陥っていく。ランボーヴェルレーヌに妻マチルド(中越典子)と離婚するように言い続け、ヴェルレーヌランボーとも妻とも別れられないと迷い続ける。二人はブリュッセルや、ロンドンの安宿を転々としながら、言い争いをやめない。

 ランボーは神を信じず、愛も希望も語ることはない。彼は「地獄の季節」を言葉通り生きる。その詩にあれほど衝撃があるのは、彼の全存在の重みをかけた絶望が、切れ味鋭くザクッと世界を切断して見せるからなのだ。彼は太陽の否定――その皆既食の闇で、すべてを切り取る。

 二年の後、ランボーヴェルレーヌは発砲し、恋愛は終わる。ここに描かれる恋愛は魔物だ。蝋燭の明かりが、部屋の隅にうずくまる闇を追い払えないように、愛の中には魔性のものがある。そして彼らの芸術も、暗がりのもの、魔のものなのだった。愛する、とは決して口に出さなかったランボー、そのランボーに縋るヴェルレーヌ、彼らの関係は悪縁だ。しかし、月日が過ぎ、ヴェルレーヌランボーが回心したあと死んだことを知る。目を灼く太陽は食によってほんの一瞬、姿を消す。悪縁はいつの間にか、聖別された赤い糸のように別の顔を見せ始めるのだ。

 ウージェーヌ(立石涼子)が「そりゃそうよ。」と言って笑う時、その後ろにある彼女の世界が、毛細血管に血がぱあっといきわたるように一気に広がって見え、鮮やかだった。岡田将生初舞台と思えず。