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帝国劇場 『ラ・マンチャの男』

 右と左の靴下を、いっぺんに編んでるみたいだ。二重に重なった靴下が、じゃーん!編終わりで二つになって現れる。『ラ・マンチャの男』とは、セルバンテス松本幸四郎)とドンキホーテ松本幸四郎、二役)を同時にさしている。激しくギターをかき鳴らす男と、踊る男が冒頭に現れるが、それはこの二人を暗示しているのだろう。

 詩人で作家のセルバンテスは、教会とのトラブルから牢に収監される。牢の中では囚人たちがつれづれに裁判をしている。その裁判の被告となったセルバンテスは、申し開きとして自分の描いた物語『ドン・キホーテ』を、囚人たちに演じてもらう。劇中劇『ドン・キホーテ』は、「見果てぬ夢」という素晴らしいナンバーで始まる。

 夢は稔り難く

 敵は数多なりとも

 胸に悲しみを秘めて

 我は勇みて行かん

 この歌が、繰り返されるたび、違ったように聞こえる。最初、ドン・キホーテが風車に突っ込むとき、狂気ってこんな感じかなあと傍観。気の毒になー。しかし、宿屋の飯盛り女アルドンザ(霧矢大夢)をドルシネーア姫と呼び、アルドンザの中にある一筋の清らかさに向けて呼びかけるころにはその破天荒を救いのように感じ始める。しまいには、ドン・キホーテの再登場を強く願う。大体、狂気や正気をいったい誰が決めるというのだろうか。

 狂気の中に潜むピュアな何か、人の心をかき乱す善なるもの、セルバンテスの中のサンチョ(駒田一)とドン・キホーテからそれらが放射している。アルドンザは難しい。彼女は辛い暮らしをしていてキホーテを信じない。しかし、狂気がまいた種として独自に成長する。辛いということがピュアを信じさせるのだ。信仰のように。