新宿シネマカリテ 『霊幻道士 こちらキョンシー退治局』

 古びたエレベーターのB3F表示が光り、今しも降下してきたところだ。扉の中から現れた青い制服の警備員が、異変を感じて耳の横に懐中電灯をかざす。フロアの夥しい血、肉片、停まっていた軽トラックの中を見ると、運転席の男が死んでいる。「!」カメラは死んだ男を映さない、次の瞬間、襲われた警備員の恐怖の表情とその顔を掴む手をアップで撮る。

 はなしちがう!こんなこわいはなしって知ってたら来なかったのに!

 しかし、そんな心の叫びも数秒だ。襲ってきた男が、とつぜん、両手を硬直させて胸の高さまで伸ばしてあげ、ぴょん、ぴょん、と足をそろえて前進する。

 キョンシーかぁ。脱力と可笑しさで、怖さがどこかへ行ってしまったよ。しかし最近、映画の細部の血とか死体とかのリアリティ、すごいよね。それが映画全体のリアリティを支えるっていう思想なんだろうね。ちょっとイヤ。

 青年チョン・ティン(ベイビージョン・チョイ)は、清掃局を装い、キョンシーを駆逐する秘密の公的機関、キョンシー退治局(Vampire Cleanup Department)にスカウトされる。いろんなへまを重ねるうちに、チョン・ティンは一人の美少女キョンシー(リン・ミンチェン)に出遭うのだった。

 美少女をかくまい、そのお世話をするっていうの、古典やらなんやら、ある話だけど、今の日本で、特に女の目で見ると、変。この映画はギリギリのところでなんとかそこを回避できている。それは一重にベイビージョン・チョイの軽い嫌味のない芝居と、爽やかさのおかげだろう。師匠(VCDの上司)のジーチャウ(チン・シュウホウ)とのカンフーは、まるで、ほっそりしたお花が揺れているみたいだった。