ギャラリースペースしあん 『おちないリンゴ×さんらん公演 夏しばい』

 坪内逍遥の婿さんが、「室内劇」というのに凝っていて、自分の屋敷で芝居をやっていた。というのを思い出す、築六十年の日本家屋での公演。飯塚友一郎(お婿さん)邸よりは狭いんだろうけど、十二畳(?)程の座敷に客席の雛壇が4段くらい組まれ、後ろの大型エアコンが懸命に涼しい空気を吐き出している。玄関わきの広縁が舞台、その向こうは大きなガラスの引き戸が4枚あって、中央寄りに江戸風鈴が下がる。ガラス越しに見る前栽の石にまぶしい白い木洩れ日があたり、笹群はそよっともしない。暑い日だ。塀に面した木にひよどりがとまる。飯塚友一郎の嫁さん(逍遥の養女)が室内劇があんまり大変で、「別れるわ!」ってなったことも思い出し、やっぱり座布団の手配など忙しいのかなとか考える。でもいいじゃん。こんな素敵なところで芝居できる。

 一本目はおちないりんごの『虫の音と風鈴』。ねえさん(由川悠紀子)が青年(石関準)と、日記について語り合っている。妹(木村佐都美)とその恋人(野口聡人)が来て、ねえさんがじつは風鈴と話をする、いわゆるコミュ障だという。ねえさんは親にいじめられていて、割を食ってる子だった。こうした話が紅茶の「リプトンじゃない奴」や「だれたケーキ」のリアリティの中で展開する。

 会話も演出も握った手のように少し閉じていて、すべてのことがきゅっと同じ場所で起きる。コミュニケーションについての会話をコミュニケーションそのもので進めず、「リプトンじゃない奴」を巡る意見対立などで広げた方がわかりやすかったと思う。

 『おかえり』(さんらん)は演劇らしく大きく家を使う。お盆に帰ってきた死んだ妻リョウコ(清水優華)がパリッとキューリをかじる所から始まった。ただ、キューリって、ヘタがえぐいので、普通「ペッ」と吐き捨てて残り食べるんじゃないかなとちょっと思いました。まあ豪快でスピーディだからはしっこ齧るんだろうね。弟タキオ(中村有)、夫ハジメ(さいとうまこと)、好演しています。与野を絡めたのもよかった。いつか「来なくなる」かんじがして。