シアタークリエ ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』

 街のうなじ。

 街にも人と同じように、自分では見ることができない「うなじ」があって、それはきっと、ジャージー・ボーイズが生まれたような土地、軍人かマフィアかスターになるしかない、忘れられた、半分何かを諦めたような場所だ。

 それからもちろん、「ショー」にもうなじはある。光るスパンコール、仕立てのいい派手な衣装、くるくる回るミラーボールの陰に、決して表に出てこない、数々の逸話、愛や嘘や秘密や友情のある所。

 正面から明るく強い光で照らされながら、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』は、登場人物の後姿を追いかけ、覗き込み、そのうなじを捉える。

 ニュージャージー。ここでイタリア系移民の子として育ったフランキー(中川晃教)は、その美声を聞き逃さなかったトミー(藤岡正明)のカルテットに入り、紆余曲折の末、成功を掴みとる。

 舞台の左右にそれぞれ10台くらいのモニターが、タテヨコ思い思いに、かっこよく配置されている。芝居が始まる前、モニターは赤い。三層のセットの天辺にある横長の鏡も、赤い。よくよく目を凝らすとそれは客席が映し出されていて、観客が入るたびに少しずつ座席の赤が遮られてきえてゆくのだった。それがほんとにショービジネスに携わる者の、客によってしか満たされない心のようである。

 中川晃教のファルセットボイス、カルテットのハーモニーは、『ジャージー・ボーイズ』を十二分に成立させていた。途中で、どうしてこの歌を聴いて客席は立たないのかと不思議に思ったが、カーテンコールでは皆席を立ち、ロックコンサートの盛り上がりの時の、白く発光したような会場になっていた。