浅草見番 三遊亭萬橘定期独演会 『第13回四季の萬会』

 その土地の芸妓さんの束ねや調整事務をする見番、その浅草見番の二階の広座敷で、今日は萬橘さんの定期独演会。

 畳には一面に白い座布団が敷かれ、畳に座るのがつらい人たちには、10席ほどの椅子席がある。プロセニアムアーチ(?)の向こうが板張りで、高座があって、その後ろに六曲二双の白い屏風。私の座布団の隣に大きな木製のガラスケースがあり、中に8挺の三味線がじーっとならんでいる。「大切に使いましょう」という小さい注意書きがなんかかわいい。

 開口一番のまん坊さんの出の前に、とってもじょうずな三味線が聞こえた。グレーの着物からえんじ色がのぞくおしゃれな取り合わせで登場したまん坊さんに、あれっと思う。たたずまいがとても落語家らしい。こうして薄紙を剥がすように、書生っぽいまん坊さんも、成長していくんだなあ。今日の落語「しわい屋」の出来は今一つで、あとで本人も少し浮かない様子に見えたけど、全体の雰囲気はよくなっていた。

 萬橘さんの最初の話は「ふだんの袴」。墓参りの殿様が、骨董屋の店先をかりて一服している。それをみていた粗忽者が、お殿様のまねをして煙管の火種を袴に落とし、お殿様のようなセリフを言おうとする。萬橘さんがすごい勢いで黒羽二重と仙台平(といったと思うけど)のお殿様の衣装のくだりをすっ飛ばすので、聴いてほしいのはそこじゃないのだろうと思うけれど、それでも、もうすこし、お客に意味を張りつけてもいいような気がした。「いいかたちだね。」とお殿様の悠然とした姿を思い返しているところが、とてもよかった。粗忽者の目の裏に、さっきの光景がもう一回見えている。煙管の羅宇がつまっているのもずぼらでリアルで、おかしかった。

 次はゲストの三遊亭白鳥さんがチャイコフスキーの調べに乗って現れる。着物の肩の折山に袖先まで、アディダスみたいなストライプが入っていて、紋の所に大きな白鳥が、首をつつましく下げている。白鳥さんはついこないだ腸にポリープが4つみつかり、即入院で取ったばかりだそうだ。

 「じぃ」「じぃ!」「侍従長!」という語り出しで始まった噺は日本のプリンセスの冒険譚。上つ方と「東日本橋」「かっぽう着」「てんぷらや」などの対比で笑わせる。インパクトと毒気でぐいぐい推進してゆく。でも、いうほどtouchy(きわどい、扱いにくい、厄介な)じゃない。穿ちがない。上流家庭の子弟の喋り方など知りませんってとこから入ってる。ヒロインに対して愛が足りないし、定食屋のおばさんも、煮込み屋のおじさんも記号的。ポリープ取ったばかりだからか、少し元気がないように見えました。

 最後は「大工調べ」、題名は聞いたことがあるなあ。家賃のカタに道具箱を大家におさえられている与太郎のために、申し開きをしに行った棟梁(とうりゅう、むかしっぽい!)がとんとんとーんと啖呵を切る。萬橘さんの啖呵は三十代で気力も体力も集中力も最高じゃないと切れない啖呵。よどみなく超高速でしかも意味が通ってる。でもこれも最初の噺の着物の描写と同じで、もっと目を立てて、お客さんに貼りつけた方がいいように思う。啖呵切ってる意味がどこかにいっちゃうもの。

 でもこの啖呵が高速だから、与太郎がのん気にしている対比でとても笑える。与太郎がカメにえさをやっているところで、今日一番笑ったのだった。