TOHOシネマズ シャンテ 『ザ・スパークス・ブラザーズ』

 スパークス、何十年も、たいへんだったんだね。って言っちゃうと、何かが剰(あま)る。自分の芸術を追及した。って言ってもやっぱり何か過剰。ロンとラッセルは、すばしこいイルカの背中に乗って、海中と空中をかわりばんこに突き抜けてくみたいなのだ。どうしてもイギリスっぽく見えてしまうアーティスティックな分かりにくさとスタイリッシュな奇矯さ、カリフォルニア生まれの兄弟だといってもなかなか信じてもらえず、「イギリスの方が理解されるだろう」と渡英したりする。兄のロンが音楽の仕上げに歌詞をつけ、弟のラッセルがすこし金属的で、オペラチックな声で歌う。映画はトッド・ラングレンやベック、レッチリのフリーなどのコメントを挟みながら彼らの歩みを丁寧に追う。

 『キモノ・マイ・ハウス』他数作しか聞いてなかった私は自分の不明を恥じた。20枚以上アルバムを出している大ミュージシャンだったなんてさ。でも、この映画では、なんかいまいち、スパークスがわからん。歴史はわかるけど。「コマーシャルでなくアート」「意志が固い」「過去にとらわれない」とか、鵺の手足をやたらに探っているような感じだもん。後半に出てくる、2018年ロンドンライブで歌われる「My Baby’s Take Me Home」ってすごい。一音、「オ」から始まり、「オム」「ホオム」と音節に変化して、文を作り、脳の言語野を横断して詩となり、チューンがサウンドに変態するところを目撃できるのだ。この人たち、チューンもサウンドも深く理解しているんだよ。すごい。この曲における音の誕生とその旅は、ゆっくりと進む隊商みたい。スパークスはこうして自らの脳内をあちこちキャラバンする。進む先は自分自身のさらなる奥地だ。全き自分、知らない自分へこつこつ歩む。…って思うんだけど、音楽からスパークス解析しないね。音楽ファンには自明なの?