PARCO劇場 パルコ・プロデュース2022『てなもんや三文オペラ』

 マック(生田斗真)、とても大きな役だ。そして、とても重い役である。『三文オペラ』の「マック・ザ・ナイフ」でありながら、太平洋戦争の南方からの帰還兵で、鉄くず盗賊「アパッチ」を率いる向う見ずな男でなければならない。戦地から帰ってきた男たちは「戦争」を函に入れて鍵をかける。だが戦後10年たってマックはひとつも忘れていない。「敗戦まで」が彼を決定する。ここね、ここがもひとつわからん。特攻隊とはまた違う荒んだ戦後を生きている影、ラストを「受けいれる」ヘヴィーな自罰感へと至る道筋が見えん。あんまし考えてないね。自罰感が軽く感じる。そのかわり、3回繰り返す寒いはずのギャグは寒くなくて完璧。

 全編通して、娼婦ジェニー(福井晶一)除くとみんな歌がへなへな。警察署長ブラウン(福田転球)とマック、お坊ちゃまポール(ウェンツ瑛士)とマックの冒頭の歌、歌いだしの2フレーズがまずいよ。クルト・ヴァイルって、「節」(チューン)が聴きたいのに、伴奏を乗り越えてこない。何と突き抜けてヴァイルらしく聴こえるのは、最後のピーチャム(渡辺いっけい)の怒りのフレーズのみ。ここが!たいへん!よかった!全部この感じでやってほしい。ウェンツ瑛士、頑張っているが声が割れてる。割れていいのは2か所の取り乱すところだけで、2回あるからタッチ付けなきゃね。未亡人よと母(根岸季衣)にきっちり言われる背中、芝居してない。ルーシー(平田敦子)とマック、ルーシーとポール、ルッキズムを乗り越える何か新しいものが見えて来てるかもとちょっとドキドキした。『あなた』という70年代の歌を転用するところとか手抜きだと思う。鄭義信ならもっといい台詞が書けるはずだ。「てなもんや」=わすれっぽい国民、の一撃が効いてない。とにかくもっと鍛えて、伴奏を突き抜けてほしい。やることいっぱいあると思うけど、これ、一万円超えてるし。